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第二章
第24話(4) とうとう尻尾を出す
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「ふむ、氷の斬撃を飛ばして弾丸を切断しましたか……」
神不知火が顎に手をやって呟く。御剣がやや間を空けてから口を開く。
「……即座に見極めるとはやるな」
「大したことではありません。奥義を出されたということは、ちゃこさん……伊達仁さんの銃さばきも悪くはなかったということでしょうか?」
「まあ、少しは焦ったな」
「そうであれば、この娘も本望でしょう……」
神不知火が倒れ込む茶々子を見て呟く。
「いや、それなりに加減はしたぞ。縁起でもないことを言うな……」
「冗談です。すみません」
神不知火が頭を下げる。それを横目に見ながら御剣が刀を鞘に納める。
「さて……もういいだろう?」
「はい?」
「とぼけるな。我々と戦いたいという連中は軒並み倒れただろう」
「そうですね。まさか四人が四人とも倒されるとは思いませんでしたが……」
神不知火が周囲を見回しながら呟く。
「繰り返しになるが、我々はこの先の研究施設とやらにいる鬼ヶ島一美の身柄を確保するのが主目的だ。こちらの管区と争いたいわけではない。この者たちの治癒・治療もあるだろう。この場は見逃してくれ」
「ふむ……」
神不知火が腕を組んで考え込む。
「いや、ふむ……ではなくてだな」
「え?」
「え?じゃない。そこを避けてくれないか」
御剣の言葉に神不知火は首を傾げて苦笑いを浮かべる。
「私にも色々立場というものがありまして……」
「それは重々承知しているつもりだ」
「さらに考えというものもあるのです」
「考えだと?」
「まあ、それは良いとして……皆さんの演習を眺めていて気が変わりました。私とも手合わせをお願い出来ますか?」
神不知火が構えをとる。御剣がため息をつく。
「……本気か?」
「ええ、ある意味本気です」
「ちっ……痛い目を見ても知らんぞ」
御剣が刀を抜く。
「……」
「はっ!」
御剣が刀を振るう。先程と同様に氷の斬撃を神不知火に向かって飛ばす。
「『臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前……炎』!」
「むっ⁉」
神不知火が両手を素早く動かすと、炎が発生し、氷の斬撃が空中で溶ける。
「ふう……」
「両手で印を結ぶ、『九字護身法』にそのような技法があろうとは……」
「十字と言って、一文字足すことによって効果を特化させることが可能なのです」
「なるほど、さすがは優れた陰陽師の家系だけはあるな……」
「正直、少し焦りました」
「ふっ……ならば!」
御剣が素早く間合いを詰めて、斬りかかる。神不知火が印を結ぶ。
「『臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前……舞』!」
「なっ⁉」
御剣が驚く。神不知火がふわりと空中に舞いあがったからである。
「今のは大分焦りましたよ」
「空を飛ぶのか、なかなか厄介だな……」
「ふふっ……」
「まあ、やりようはある……上杉山流奥義……『凍柱群立』!」
「なに⁉」
「高さ不足はこれで補う!」
御剣は自身の周囲に氷の太い柱を何本か立てて、その柱群を足掛かりにして、一気に空中に飛び上がろうとする。
「『臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前……雷』!」
「うっ⁉」
神不知火が印を結ぶと、雷が落ち、氷の柱群は粉々に砕け散り、バランスを崩した御剣は地上に落下するが、なんとか体勢を立て直して着地する。神不知火が汗を拭う振りをする。
「そのようなことも出来るとは……油断も隙もありませんね」
「雷も落とせるとは、いよいよ神だな……」
「そのように褒めても何も出ませんよ」
「……ならばつついてみましょうか?」
「がはっ⁉」
「なっ⁉」
御剣は驚愕する。突如現れた加茂上が尻尾で神不知火の脇腹を貫いたからである。神不知火は地上に落下する。ゆっくりと地上に降り立った加茂上が口を開く。
「まったく……なにをちんたらとしているのかと思えば……」
「ぐ、ぐっ……」
「貴女が東京管区と繋がっているのは分かっていました。色々と探っていたようですね?」
「え、ええ……まさか自ら尻尾を出して下さるとは思いませんでしたが……」
神不知火が脇腹を抑えながら立ち上がる。加茂上がため息をつく。
「尻尾はいつも出しているではありませんか。それに時間稼ぎも無駄ですよ? 貴女が侵入を手引きした東京管区の方々は始末しましたから」
「⁉」
「貴様……どういうつもりだ?」
御剣が加茂上に尋ねる。
「生き物と妖……その両方の血を持つ半妖こそ、この世で最も崇高なる存在、世を統べるに相応しい存在だと言える……その為に世を正し、人を排する……」
「⁉ そ、それは……」
「聞き覚えのある考えですか?」
「き、貴様、曲江実継の一派か⁉」
「一派などと……傘下に降った覚えはありません。しかし、彼の者は人間にしては良き理解者です……我々半妖にとってね!」
「うおっ⁉」
加茂上の妖力が急激に高まり、一本だった尻尾が九本に増える。加茂上が笑う。
「ふふっ、やはりこの姿の方が落ち着きますね……」
「ただの狐の半妖ではなかったのか……?」
「そう、私は『九尾の狐』の半妖です。妖絶講は力を蓄え、見識を深めるのにちょうど良かったのですが、そろそろ潮時のようですね……この辺で失礼させていただきましょう」
「それを許すと思うか?」
御剣が刀を構える。加茂上が少し考えて答える。
「そうですね……貴女方は色々と面倒ですから、ここで片づけておいた方が良いでしょう」
加茂上が尻尾を数本、空に向かって飛ばし、自身も姿を消す。
「⁉ ま、待て!」
「慌てなくても、たどり着くことが出来たら相手をして差し上げます。ただ、その前に……各地の雑兵を片付けましょうか」
「なっ⁉」
「私の尻尾を飛ばし、部下や同胞に貸し与えました。これにより、彼らの力は増大します……それらを相手にして果たして何人生き残れるでしょうか? 楽しみですね、ふふふ……」
虚空に加茂上の静かな笑いが響く。御剣は苦々しい顔を浮かべながら声を上げる。
「くっ……奴らを助けに行かなければ! む⁉」
御剣の前にいくつかの影が飛び出してくる。
神不知火が顎に手をやって呟く。御剣がやや間を空けてから口を開く。
「……即座に見極めるとはやるな」
「大したことではありません。奥義を出されたということは、ちゃこさん……伊達仁さんの銃さばきも悪くはなかったということでしょうか?」
「まあ、少しは焦ったな」
「そうであれば、この娘も本望でしょう……」
神不知火が倒れ込む茶々子を見て呟く。
「いや、それなりに加減はしたぞ。縁起でもないことを言うな……」
「冗談です。すみません」
神不知火が頭を下げる。それを横目に見ながら御剣が刀を鞘に納める。
「さて……もういいだろう?」
「はい?」
「とぼけるな。我々と戦いたいという連中は軒並み倒れただろう」
「そうですね。まさか四人が四人とも倒されるとは思いませんでしたが……」
神不知火が周囲を見回しながら呟く。
「繰り返しになるが、我々はこの先の研究施設とやらにいる鬼ヶ島一美の身柄を確保するのが主目的だ。こちらの管区と争いたいわけではない。この者たちの治癒・治療もあるだろう。この場は見逃してくれ」
「ふむ……」
神不知火が腕を組んで考え込む。
「いや、ふむ……ではなくてだな」
「え?」
「え?じゃない。そこを避けてくれないか」
御剣の言葉に神不知火は首を傾げて苦笑いを浮かべる。
「私にも色々立場というものがありまして……」
「それは重々承知しているつもりだ」
「さらに考えというものもあるのです」
「考えだと?」
「まあ、それは良いとして……皆さんの演習を眺めていて気が変わりました。私とも手合わせをお願い出来ますか?」
神不知火が構えをとる。御剣がため息をつく。
「……本気か?」
「ええ、ある意味本気です」
「ちっ……痛い目を見ても知らんぞ」
御剣が刀を抜く。
「……」
「はっ!」
御剣が刀を振るう。先程と同様に氷の斬撃を神不知火に向かって飛ばす。
「『臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前……炎』!」
「むっ⁉」
神不知火が両手を素早く動かすと、炎が発生し、氷の斬撃が空中で溶ける。
「ふう……」
「両手で印を結ぶ、『九字護身法』にそのような技法があろうとは……」
「十字と言って、一文字足すことによって効果を特化させることが可能なのです」
「なるほど、さすがは優れた陰陽師の家系だけはあるな……」
「正直、少し焦りました」
「ふっ……ならば!」
御剣が素早く間合いを詰めて、斬りかかる。神不知火が印を結ぶ。
「『臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前……舞』!」
「なっ⁉」
御剣が驚く。神不知火がふわりと空中に舞いあがったからである。
「今のは大分焦りましたよ」
「空を飛ぶのか、なかなか厄介だな……」
「ふふっ……」
「まあ、やりようはある……上杉山流奥義……『凍柱群立』!」
「なに⁉」
「高さ不足はこれで補う!」
御剣は自身の周囲に氷の太い柱を何本か立てて、その柱群を足掛かりにして、一気に空中に飛び上がろうとする。
「『臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前……雷』!」
「うっ⁉」
神不知火が印を結ぶと、雷が落ち、氷の柱群は粉々に砕け散り、バランスを崩した御剣は地上に落下するが、なんとか体勢を立て直して着地する。神不知火が汗を拭う振りをする。
「そのようなことも出来るとは……油断も隙もありませんね」
「雷も落とせるとは、いよいよ神だな……」
「そのように褒めても何も出ませんよ」
「……ならばつついてみましょうか?」
「がはっ⁉」
「なっ⁉」
御剣は驚愕する。突如現れた加茂上が尻尾で神不知火の脇腹を貫いたからである。神不知火は地上に落下する。ゆっくりと地上に降り立った加茂上が口を開く。
「まったく……なにをちんたらとしているのかと思えば……」
「ぐ、ぐっ……」
「貴女が東京管区と繋がっているのは分かっていました。色々と探っていたようですね?」
「え、ええ……まさか自ら尻尾を出して下さるとは思いませんでしたが……」
神不知火が脇腹を抑えながら立ち上がる。加茂上がため息をつく。
「尻尾はいつも出しているではありませんか。それに時間稼ぎも無駄ですよ? 貴女が侵入を手引きした東京管区の方々は始末しましたから」
「⁉」
「貴様……どういうつもりだ?」
御剣が加茂上に尋ねる。
「生き物と妖……その両方の血を持つ半妖こそ、この世で最も崇高なる存在、世を統べるに相応しい存在だと言える……その為に世を正し、人を排する……」
「⁉ そ、それは……」
「聞き覚えのある考えですか?」
「き、貴様、曲江実継の一派か⁉」
「一派などと……傘下に降った覚えはありません。しかし、彼の者は人間にしては良き理解者です……我々半妖にとってね!」
「うおっ⁉」
加茂上の妖力が急激に高まり、一本だった尻尾が九本に増える。加茂上が笑う。
「ふふっ、やはりこの姿の方が落ち着きますね……」
「ただの狐の半妖ではなかったのか……?」
「そう、私は『九尾の狐』の半妖です。妖絶講は力を蓄え、見識を深めるのにちょうど良かったのですが、そろそろ潮時のようですね……この辺で失礼させていただきましょう」
「それを許すと思うか?」
御剣が刀を構える。加茂上が少し考えて答える。
「そうですね……貴女方は色々と面倒ですから、ここで片づけておいた方が良いでしょう」
加茂上が尻尾を数本、空に向かって飛ばし、自身も姿を消す。
「⁉ ま、待て!」
「慌てなくても、たどり着くことが出来たら相手をして差し上げます。ただ、その前に……各地の雑兵を片付けましょうか」
「なっ⁉」
「私の尻尾を飛ばし、部下や同胞に貸し与えました。これにより、彼らの力は増大します……それらを相手にして果たして何人生き残れるでしょうか? 楽しみですね、ふふふ……」
虚空に加茂上の静かな笑いが響く。御剣は苦々しい顔を浮かべながら声を上げる。
「くっ……奴らを助けに行かなければ! む⁉」
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