上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

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第二章

第25話(4) 9-6=?

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                  ☆

「こ、ここは……!」

 勇次が驚く。神不知火の先導の下、たどり着いた場所には見上げるような高さのタワー型の建物があったからである。

「ますます、単なる研究施設とは思えんな……」

 御剣が呟く。勇次が神不知火に問う。

「中に姉ちゃんがいるんですか⁉」

「ええ、恐らくは」

「急ぎましょう!」

「そう焦らなくても大丈夫ですよ」

「!」

 建物の入り口に加茂上が姿を現す。

「思ったよりは早かったですね」

「加茂上管区長、いや、加茂上……!」

「あら? もう傷が治癒したのですか。優秀な治癒要員がいるようですね」

「貴女の行い、もはや見過ごせません!」

 神不知火が声を上げる。加茂上がわざとらしく首を傾げる。

「それならば……どうするのですか?」

「身柄を抑えます! 抵抗次第では根絶されることもお覚悟下さい!」

 神不知火が印を結ぼうとする。

「……お願いします」

「⁉」

 加茂上と神不知火の間に多数の妖が出現する。神不知火が驚く。

「こ、この妖たちは以前にこの東北管区で根絶した……!」

「こんなことが出来るのは……」

「お察しの通りですよ、上杉山管区長。彼らにも来てもらいました」

 加茂上の両脇に狂骨と天狗が現れる。御剣が顔を険しくする。

「貴様ら……!」

「それでは改めて……皆さんのお相手をお願いします」

「……ふっ!」

「おらあっ!」

 加茂上は再び建物の中に姿を消して、狂骨と天狗がそれぞれ御剣と勇次に襲いかかる。神不知火が叫ぶ。

「上杉山管区長!」

「奴らの相手は私たちがやる! 神不知火副管区長は周辺の妖を頼む!」

「りょ、了解しました!」

「任せた! ぐっ!」

 狂骨が二又の槍を突き出してくるが、御剣が刀で受け止める。狂骨が笑う。

「ふふっ、最近、よくお会いしますね」

「……正直、あまり見たくはない顔だな!」

「酷いことを言いますね!」

「ぐう⁉」

 狂骨が力を込めると、御剣が押され気味になる。

「何故、瘦せっぽちの私に押されているのかと不思議ですか? 答えは簡単、後ろに浮かぶあれですよ」

「⁉ あれは……」

 狂骨が指し示した先には尻尾が浮かんでいる。

「そう、加茂上さんの尻尾の一尾です。加茂上さんの持つ高い妖力のほんの一部ではありますが、その妖力が我々に流れ込んでいるのです」

「なるほどな……」

「それにしても、先日の東京ほどの力を感じませんね。もしかして……今日は武枝さんの鼓武を受けていらっしゃらないのですか?」

「ああ、なにせ色々とバタバタしていてな……!」

「なんと……それは一方的な展開になってしまいそうですね……」

「抜かせ!」

「おっと!」

 御剣が狂骨を押し返す。御剣は刀を構え直して笑う。

「これくらいがちょうど良いハンデだろう?」

「強がりを!」

「ふん! はっ!」

 狂骨が次々と繰り出す、鋭さのある突きを御剣は華麗にさばく。

「ふっ……さすがにやりますね」

「有象無象に尻尾が生えた程度で粋がるな」

「ならば……」

「……⁉」

 狂骨が槍を左手に持ち替え、右手を前に突き出す。御剣は体勢を崩す。

「これならばどうです?」

「な、なにを……?」

「私は妖を蘇らせることが出来る半妖……その反対のことも出来るのです」

「⁉ ま、まさか……?」

「そう、貴女の生命力を吸い取っているのです!」

「ちっ……」

 御剣は膝をつく。狂骨は高らかに笑う。

「はははっ! さすがの貴女でもこういう手段には成す術なしのようですね!」

「ぐっ……」

 御剣は刀を落とし、左胸を両手で抑える。それを見て狂骨はさらに笑う。

「ふはははっ! なんの真似ですか⁉ ひょっとして、心臓を守っているつもりですか? 生命力=心臓ではないのですよ!」

「……」

 御剣はそれでも心臓の辺りを抑えている。狂骨はなおも笑う。

「あはははっ! なんと滑稽な! 貴女ほどの人でも、追い込まれると判断力が鈍るのですね! 良いことを知りました!」

「……上杉山流……」

「ん?」

「秘奥義……」

「何をぶつぶつと言っているのですか?」

「『凍気(とうき)』!」

「⁉ なっ、なんだと⁉」

 狂骨の掲げていた右腕が凍り付く。御剣がゆっくりと口を開く。

「……生命力=気の流れと仮説を立ててみたのだが、当たらずも遠からずといったところだったようだな……!」

「ば、馬鹿な……気の流れそのものを凍らせただと⁉ あ、ありえない!」

「もらった!」

「ぐあっ!」

 刀を手に取った御剣は狂骨を斬る。狂骨は倒れ込み、尻尾が消える。

                  ☆

「おらおらっ!」

「くっ……」

 天狗の素早い攻撃に勇次は防戦一方になる。

「どうした鬼ヶ島! そんなものだったか⁉」

「ちょ……調子に乗るな!」

「おおっと!」

 勇次が金棒を横に振るが、天狗はそれを難なくかわしてみせる。

「くそっ!」

「大振りし過ぎだ! 隙だらけだぜ!」

「しまった⁉」

「そら!」

「がはっ!」

 天狗の振るう二本の小太刀が勇次の体を傷つける。勇次はなんとか踏みとどまる。

「へえ……今ので倒れねえか。タフだな」

「お、お前……」

「ん?」

「東京で会ったときはそこまでではなかったはず……この短期間でなにが?」

「意外と察しが良いな。答えはあれだよ」

 天狗が自身の後方に浮かぶ尻尾を指し示す。勇次が首を傾げる。

「し、尻尾……?」

「加茂上の姐さんの尻尾だ。どういう原理かは俺も知らんが、姐さんの妖力の一部が俺の体に流れ込んでいるってわけだ」

「な、なるほどな……ははっ」

「? なにがおかしい?」

「そりゃあおかしいだろう? 『狐の尾を借る天狗』だぞ? 笑うしかねえだろう?」

「! 黙れ!」

「ぐはっ!」

 天狗にさらに斬りつけられ、勇次がうつ伏せに倒れ込む。天狗が話す。

「鬼ヶ島勇次……てめえの身柄も抑えろと言われているが、別に五体満足でとは言われてねえ……もう少し痛めつけてやるぜ!」

「三味線!」

「うおっ⁉ ね、猫⁉」

「勇次!」

 大きい状態で現れた又左が両手の爪から斬撃を飛ばして、天狗をのけ反らせる。その隙を突いて勇次を口にくわえて飛び、天狗から距離を取る。天狗が舌打ちをする。

「ちっ、化け猫め、邪魔しやがって……」

「勇次、大丈夫にゃ⁉」

「こ、これくらい余裕だぜ……」

 又左は勇次を地面にそっと下ろして問う。仰向けになった勇次は右手の親指を立てる。

「余裕だと⁉ そんな減らず口を叩けねえようにしてやるよ!」

「むん!」

「なっ⁉」

「これ以上おめの好き勝手にはやらせん!」

 勇次に襲いかかろうとした天狗の前に高松が立ちはだかる。体全体をふんわりと桃色の空気が包み、頭には角が生えている。それを見た天狗が驚く。

「そ、その角は……もう一人鬼の半妖が⁉」

「お、俺はなまはげの半妖だ!」

「なまはげ……? 同じようなものだろう!」

「同じでね! 全然別物だ!」

「うおっと!」

 高松が包丁を振り回してきたため、天狗は後ずさりする。高松は追い打ちをかける。

「逃がさねえぞ!」

「くっ!」

 天狗が空に羽ばたく。高松は地団駄を踏む。

「んおっ! 空を飛ぶとは! 汚ねえぞ! こっちさ降りでこい!」

「黙れ! 次から次へと邪魔が入りやがる……面倒だ、これで決めるか!」

 天狗が構えを取る。又左が叫ぶ。

「マ、マズいにゃ! あそこから風の刃を飛ばすつもりだにゃ!」

「な、なんだって⁉」

「その通りだ……喰らえ、『風刃……』 って⁉」

 突然、天狗の羽を銃撃が襲う。天狗はバランスを崩して高度を下げる。

「私は当たりました……哀、無駄弾でしたね……」

「う、うるさいな、愁! ちょっと距離があったからだから!」

 バズーカとマシンガンを持った双子を見て、又左が驚く。

「あ、あれは哀愁ツインズ⁉」

「又左! 俺を乗せて飛べ!」

「勇次⁉ わ、分かったにゃ!」

 又左が勇次を乗せて飛ぶ。勇次は又左の背中を蹴ってさらに飛び上がり、天狗に近づく。

「届いたぜ! おらあ!」

「ぐああっ!」

 勇次の振るった金棒によって、天狗は地面に叩き付けられ、気を失い、尻尾が消える。

                  ☆

 御剣たちが建物の中を進むと、吹き抜けの広い空間の部屋にたどり着く。その部屋の上方にある階段を上がったスペースに加茂上の姿があった。それを見つけた御剣が叫ぶ。

「追い詰めたぞ! 加茂上!」

「あら? ほぼ無傷でいらっしゃるとは驚きですね」

「優秀な治癒要員が揃っているのでな」

 御剣が顎をしゃくるとその先には、御盾と愛の姿があった。

「武枝副管区長に……曲江愛さん? ということは……」

「お察しの通りだ、上杉山隊・武枝隊の両隊が駆け付けてくれた。狂骨に復活させた妖どもは今頃奴らが根絶しているところだ」

「ふむ……そしてこちらは神不知火副管区長だけでなく、伊達仁隊長、高松隊長、峰重隊長に副隊長まで……皆さまお揃いで」

「ええ、東北管区総出で、貴女を止めに来ました! 覚悟なさい!」

 神不知火が叫ぶ。加茂上は笑う。

「ふふっ、そんな大勢でいらっしゃるとは……人気者は辛いですわね」

「無駄な虚勢を張るな、もはや貴様に勝ち目はない」

 御剣は刀を加茂上に向かって突きつける。やや間を空けて、加茂上が口を開く・

「……それでは問題です……」

「なに?」

「あるところに九本の尻尾を持った狐がいました。狐はその尻尾を全てお友達に貸し出しました。しばらくすると尻尾は六本戻ってきました。さて、残りは何本でしょう?」

「なにを言っている……⁉」

「⁉」

 フロアに銃弾の雨が降り注ぐ。直撃こそしなかったが、皆が爆風で吹っ飛ばされる。御剣はなんとか回避する。

「こ、これは……はっ⁉」

「……ふん!」

「ぐはっ⁉」

 御剣が強烈な掌底を喰らい、後方に吹っ飛ばされて、壁に激しく打ち付けられる。加茂上が掌底を放った人物に声をかける。

「その調子で頼みます。星ノ条管区長」

「はい……」

「貴女方もお願いしますよ」

「「はっ……」」

 哀と愁が頷く。御剣が苦々しく呟く。

「くっ、まだ三人残していたか……」
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