上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
103 / 123
第二章

第26話(1) 泣く子はアタシ、悪い子はウサギさん

しおりを挟む
                  拾参

「隊長!」

「愛、来るな!」

「きゃっ⁉」

 愛が御剣のもとに駆け寄ろうとすると、マシンガンの銃弾が降り注ぐ。

「ま、まずは自分の身を守ることを優先しろ……」

「そ、そうは言っても……」

「不意を突かれたのでしょうか……星ノ条管区長が操られているのは厄介ですが、こっちは9人います。数の上では優位です……!」

 神不知火が冷静に現状を分析する。

「ふふっ……」

 加茂上が笑う。神不知火が睨む。

「なにがおかしい?」

「いいえ……」

「ピョーン‼」

「⁉」

 そこに燕尾服を着た、頭にウサギの耳を生やした男が壁を壊して飛び込んでくる。

「おおっ、適当に突っ込んでみたら、これまた妖力と霊力が高そうな連中がうようよ集まっているピョン! 僕と遊んで欲しいピョン!」

「な、なんだ⁉ あのうさ耳男⁉」

「干支妖の一人、卯月(うづき)ですね。先日存在が確認されたという……」

 高松の叫びに神不知火が応える。高松が戸惑う。

「ま、また干支妖か⁉」

「二度目は偶然、三度目は必然……!」

「完全にコントロール出来る方々ではありませんが、ちょっとした誘導を……」

 自身を睨み付ける神不知火に対し、加茂上がわざとらしく両手を広げる。

「……私たちでなんとかしましょう! 伊達仁隊長、高松隊長!」

「ええっ⁉ 俺たちで⁉」

「干支妖か……」

 神不知火の呼びかけに高松は困惑し、茶々子もやや慎重な姿勢を見せる。

「見事討ち取った暁には新たな管区長の座も見えてくるかもしれません……」

「その話乗った!」

「い、いや、俺は別に管区長に興味は……」

 神不知火の呟きに茶々子は俄然闘志を燃やす。高松はなおも戸惑う。

「うん? まずはそっちの三人が遊んでくれるピョン?」

 卯月が神不知火たちの方に向き直る。茶々子が笑みを浮かべながら銃を発砲する。

「へっ、まずは、じゃねえ! アタシがさっさと始末してやんよ!」

「おっと!」

「なっ⁉」

 卯月が高いジャンプ力を活かして、茶々子の銃撃をかわす。

「せっかくの飛び道具も当たらなければ意味が無いピョン♪」

「ちっ……」

「宝の持ち腐れだピョン♪」

「ピョンピョンうるせえんだよ!」

「よっと! ほいっと!」

 茶々子が銃を連射するが、卯月は軽やかなステップでそれらをかわしてみせる。

「くそ! 飛び跳ねやがって! ん⁉ ……ちっ、弾切れか!」

「考えなしに連射するからだピョン……」

「うるせえな! ちょっと待ってろ……」

「うん?」

「……キターーーー‼」

 茶々子が目薬をさして、涙を溢れさせる。高松が驚く。

「ええ⁉ そうやって弾丸を補充するのが⁉」

「こうすりゃ無尽蔵だ! おらおら!」

「闇雲に撃っても当たらないピョン!」

「てめえの体力が尽きるのが先か……」

「む?」

「アタシの涙が枯れはてるのが先か……勝負だ!」

「ち、違うところで張り合ってねが⁉」

 高松の指摘にも構わず、茶々子は銃の連射を続ける。

「おらおらおら!」

「あらよっと! ……さすがに段々飽きてきたピョン……」

「それはちょうど良かった……」

「ん?」

「『臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前……舞』!」

「なっ⁉」

 神不知火が高く舞い上がり、卯月に限りなく接近する。

「ちゃこさんが巧みに誘導して下さったお陰です!」

「……うむ! 狙い通りだ!」

「い、いや、絶対嘘だ⁉」

 腕を組んで頷く茶々子に対し、高松が指を差して突っ込む。

「『臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前……拳』!」

「しまっ……」

「逃がしません!」

 神不知火が空中で素早く印を結ぶと、巨大な拳のようなものが現れ、卯月の体を地面に豪快に叩きつける。卯月がうめき声を上げる。

「うぐう……」

「『臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前……踏』!」

 続いて巨大な足のようなものが現れ、倒れ込んでいた卯月を思い切り踏みつける。

「……!」

 卯月は声にならない様子でうめきながら、自身がめり込んだ穴からなんとか這い出ようとする。それを見て神不知火が感心する。

「まだ、動けますか……どなたか、とどめをお願いします!」

「ええっ⁉ 神不知火副管区長は⁉」

「少しばかり力を消耗し過ぎました……」

「だ、伊達仁隊長! えっ⁉」

「目薬の分量間違えた! 涙が思ったよりもどばどばと出てきちまう……!」

 神不知火は苦しそうな表情を浮かべ、茶々子は余計な涙を拭きとるのに忙しい。

「……ってごどは……」

「高松隊長、お願いします!」

「た、頼むぞ、高松っちゃん!」

「ちっ……仕方がね!」

 高松が叫ぶと、その体全体を包むように桃色の気が充満し、頭部に角が生える。

「……!」」

「泣く子はいねーがー⁉ 悪い子はいねーがー⁉」

 高松は右手に包丁、左手に桶を持って、呼びかける。茶々子が手を上げる。

「泣く子はアタシだな」

「そいだば、悪い子は……」

「あのウサギさんですね」

「分がった! うおおおっ!」

 神不知火の言葉に従い、高松は包丁を振り回しつつ卯月に飛びかかる。卯月はかわす。

「! くっ……はっ! お気に入りの燕尾服がボロボロに! ここは撤退するピョン!」

 卯月は飛んで、自分が入ってきた穴から外に飛び出す。

「逃げたか……ボロボロになった燕尾服のカスは桶で回収して……」

「ええっ⁉ そういう使い方だったのか⁉ 嘘だろ⁉」

「いや、案外大事になってくるかもしれません……とにかく追い払うことが出来ましたね」

 驚く茶々子の近くに降り立った神不知火がほっと安堵のため息をつく。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

処理中です...