上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

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第二章

第26話(2) 管区長への道

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                  ☆

 茶々子が干支妖相手に毒眼で銃を撃ち始めた頃、その近くで御盾が雅と対峙していた。

「雅さん……」

 御盾は視線をわずかに雅から外し、部屋の上方にいる加茂上に向ける。

「無謀です」

「無理です」

「どわあ⁉」

 御盾の耳の両側から、峰重姉弟がそれぞれ同時に声をかけた為、御盾は驚く。

「あ……」

「な、なんじゃ、いきなり同時に声をかけてきよってからに! ステレオか!」

「す、すみません……」

 弟の史人が頭を下げる。姉の由衣はそれに構わず話を続ける。

「今、武枝副管区長は星ノ条管区長と戦うのは困難を極める。ならばなんとか管区長を出し抜いて、加茂上さんをどうにかしてしまえ……と思ったでしょう?」

「お、思ったが⁉」

「それが無謀です。さきほど、同様に尻尾のコントロール下にあった加茂上四天王のお一人と交戦しましたが、気を失わせないと尻尾の影響から脱することは出来ません」

「じゃ、じゃから、一気呵成に加茂上を狙って……」

「あの方も管区長クラスの実力者です。すぐに倒せるとは思えません。あの方と交戦している間に星ノ条管区長に後方から挟みうちにされる……そう考えてみると……ここでまず星ノ条管区長をどうにか抑え込まないとなりません」

「そ、それも結局難しいと思うのじゃが……」

 御盾が首を傾げる。由衣が頭を下げながら告げる。

「そこで僭越ながら……私たち姉弟が援護させて頂きます」

「其方たちが? 東北管区の方は良いのか?」

「はい。神不知火副管区長から武枝副管区長の援護に回るようにとの仰せですので」

「そうか……まあ、干支妖の相手するのと大差はないか……」

 史人の答えを聞いて御盾は納得する。そこで由衣が事情を説明する。

「私たち峰重隊は先々代の代から星ノ条管区長にはお世話になっておりますし、なんとかして差し上げるのがせめてものご恩返しかと……」

「……先々代の代からじゃと?」

「ええ、祖母が若い頃、星ノ条管区長に……」

「ま、待て! い、今のは聞かなかったことにする! それより雅さんをどうにかするぞ!」

 御盾が慌てて話を打ち切って、改めて雅の方に向き直る。由衣が尋ねる。

「なにかお考えが?」

「ない!」

「ならば、私たちに『鼓武』をおかけ下さい」

「え?」

「お願いします」

「わ、分かった……」

 御盾が頭を下げる姉弟の頭上で軍配を振るう。

「さて……」

 姉弟が前に進み出る。史人が由衣に声をかける。

「姉さん……」

「心配しないで、援護をよろしく」

「はい……」

「……お寄り給へ、木曽の女武者よ……」

 どこからともなく現れた槍を手に取った由衣が勢いよく雅に向かって突っ込む。

「!」

「はああっ!」

「ふん!」

 由衣が強烈な槍の突きを繰り出すが、雅はそれを冷静にさばく。御盾が舌打ちする。

「ちっ、歴戦の女武者が憑依しても圧倒出来んか! ん? 弟くん、何をするつもりじゃ?」

 御盾が前に静かに進み出た史人に尋ねる。

「援護です」

「体の大きい弟くんが援護役というのもどうかと思うのじゃが……」

「姉さん……隊長は僕……自分が傷つくのを何より嫌いますから……」

「まあ、隊にはそれぞれのやり方があるからの。余計なことを言ってすまんな」

 御盾が史人に行動を促す。史人が呟く。

「……お寄り給へ、土佐の風雲児よ……」

「む⁉」

 史人がどこからか現れた拳銃を手に取り、狙いを雅に定める。

「……これで決める……今だ!」

「はっ!」

「なっ⁉」

「じゅ、銃弾を叩き落とした⁉ な、なんという反射神経と人間離れした業じゃ……」

 史人と御盾が驚く。史人は気を取り直して、再び銃を構え、発砲する。

「こ、こうなったら逆に注意をこちらに引く!」

「……ふん」

「え⁉」

 雅が右手をかざすと、銃弾のスピードが遅くなる。御盾が叫ぶ。

「そうか、雅さんのあの術……手の届く範囲ならば時間の速度も操れるのか!」

「そ、そんなことが⁉」

「気を付けろ、弟くん!」

「えっ、ぐあっ⁉」

「じゅ、銃弾の動きを実質止めて、デコピンで弾き返した……なんという芸当を……はっ! お、弟くん、大丈夫か⁉」

「じ、実弾ではなく、ゴム弾ですから……それでも右肩をやられました……」

 右肩を抑えながら、史人がうずくまる。それを見た由衣が激高する。

「うおおい! おばあさんよ! アンタ、めごぇ弟に二度もなにすてけだんだ⁉」

「む……」

「覚悟すろ!」

 由衣が雅に対して攻勢を強めていく。御盾が驚く。

「おおっ、押し気味じゃ!」

「うおおおっ!」

「くっ……!」

「む……!」

 雅が由衣の槍の柄をガシッと掴む。由衣が振りほどこうとするが、ビクともしない。

「はっ!」

「がはっ……」

 距離を詰めた雅が由衣に掌底を喰らわせる。由衣が後方に吹っ飛ばされる。

「……残るは……」

 雅が御盾の方に向き直る。史人に寄り添う御盾が戸惑う。

「こ、こちらを見た! 弟くんも動けんのに!」

「面倒ね……これで串刺しにしてあげる……♪」

 雅が淡々と槍を御盾たちの方に向け、大きく振りかぶる。御盾が困惑する。

「口調がさほど変わってないのが、逆に恐ろしい!」

「せ~の……」

「がう!」

「むっ⁉」

 雅の右腕に飛び出してきた尚右が噛みつき、雅が体勢を崩す。尚右が叫ぶ。

「御盾、今だ!」

「⁉ 『風林火山・火山の構え・噴火』!」

「⁉」

 床から突き上げられた雅は空中に高く舞い上がった後、地面に叩きつけられ、気を失う。すると後方に浮遊していた尻尾が消える。御盾は呼吸を整えながら苦笑気味に呟く。

「歴史に残る英傑二人、さらに犬の力を借りてなんとかとは……管区長への道というのはかくも険しいものか……」
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