破壊用の祠を大量に建立して観光客を呼び込みたくさん破壊させて村おこしプロジェクト

イカダ詫び寂

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破壊用の祠を大量に建立して観光客を呼び込みたくさん破壊させて村おこしプロジェクト

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「すごいですね奥富さん。ビッグフットとまで言われてますよ」

「勘弁してください……」



 先日投稿されたナマハーゲンさんの動画はバズりにバズった。元々登録者数53

 万人ということもあるが、心霊スポットに突撃系の動画はバズりやすいそうだ。



 そもそも滝の話からオカ板での実況まで含めて全て佐藤さんの仕込みなので言ってしまえばやらせ動画だ。例の怪異は僕が担当した。猟師の織田さんから毛皮を借りて、精一杯身体を大きく見せた。あとはナマハーゲンさんが動画編集で加工した。普段からそういう加工はやっているのかと佐藤さんが聞いたときは肝を冷やした。ナマハーゲンさんは苦笑いしていた。



 祠は村総出で用意した。村の各地に設置し、もし壊している様子を目撃したら「その祠を壊したんか!」と叱責してもらうよう指導もしてある。村ぐるみのやらせだ。



 そして、肝心の村おこし効果はというと……



「あ、二人ともお疲れ。流石に3回目の観光客対応となると大変だね」



 成功していた。



 ほとんどがナマハーゲンさんのファンだが、まれに例のスレを見て来る人もいる。既に何回か祠は壊されているが、なにぶん人口が少ないので叱責するタイミングが中々ないと自治会館の裏に住む山本さんはボヤいていた。乗り気だったらしい。



「まあ、とにもかくにもここからが勝負ですよ。存分に祠壊村をアピールしましょう。浅黄食堂は盛況ですか?」

「浅黄さんのとこね、もつ煮がやたら売れてるみたいよ」

「そうですか。あそこのもつ煮は美味しいですからね」



 あと、聖地巡礼的な意味合いもあるのだろうか。



「村はずれの祠壊の湯もにぎわってるって。いやあ最初に案を聞いたときはどうなることかと思ったけど本当によかったよ」

「いや、僕もびっくりですよ。佐藤さんすごいですね。……佐藤さん?」

「……」



 佐藤さんは難しい顔でPC画面を睨んでいた。

 眼鏡に画面が反射している。



「佐藤さん?」

「奥富さん、これ」



 見せられたのは例の掲示板だった。どうやら僕たちが立てた栃木のヤバい滝の祠を直しに行くスレはPart3まで伸びていたらしい。そして有志が情報をまとめていた。どうやらナマハーゲンさんの動画もすでに見つかっているらしく、かなりの長文がまとめられている。内容はこれまで僕たちが作ってきた創作の部分が多かった。が、途中から僕の知らない情報の羅列が書き込まれていた。



「え?何ですかこれ……名前?」

「はい。どうやら奥富くんが演じたあの怪異に名前がついたようです」



 有志の投稿はこうだ。



 ・直すマンを襲った怪異は「のみつまかと」という

 ・今の祠は「のみつまかと」が作ったものであり、「のみつまかと」が「奉納」した際滝つぼに浮いたものを祠に捧げている

 ・滝にいる怪異と「のみつまかと」は別である

 ・滝にいる怪異がSNSを利用した張本人

 ・滝にいる怪異は上位存在のようなものである

 ・大昔、祠壊村では滝に乳児を捨てる(奉納と呼ばれていた)生贄のような悪習があった

 ・「のみつまかと」は当時村の権力者に無理やり犯され産まされた子どもを奉納され、悲しみのあまり滝つぼに身を投げた

 ・以来、「のみつまかと」は村人を滝に捧げるバケモノとなった

 ・「のみつまかと」を封印するために最初の祠は作られた

 ・が、どこかのタイミングで壊れ、今に至る

 ・目的はおそらく上位存在の封印?ここは不明

 ・「のみつまかと」が作った祠の中に「のみつまかと」の怪異性を詰めたものがあり、それを壊せば「のみつまかと」を再度封印できるが、それ以外を壊すと「のみつまかと」に追われることになる




「なんですかこれ……」



 佐藤さんはずっと青い顔をしている。「のみつまかと」なんて知らないし、上位存在なんてない。あの祠を作ったのは僕たちだ。



「これは本当にまずいです」

「ですよね、これはあることないことでっち上げですよ。人の村を因習村みたいに……風評被害だ」

「そうじゃないんです」



 佐藤さんが声を荒げた。そして、あるメールを開いて見せた。



 メールはナマハーゲンさんからで、どうやら動画で落とした設定にした帽子が無くなったそうだ。そして、ファンから祠に供えられている帽子の写真が送られてきたそうだ。



「どういう意味かわかりますか。私たちはやりすぎたんです。虚構が現実になって、今浸食を始めている。いえ、もうこれは手遅れの域です。名前がついていたでしょう。対怪異において一番やってはいけないんですよ。だってこれでもう存在が確定したんですから。私たちは、『のみつまかと』という怪異を産んでしまったんです。ほら、奥富さん。どうして左足だけ靴を履いていないんですか?」



 下を見ると確かに左足だけ何も履いていない。それに、今の今まで気が付かなかったが全身が濡れているような感覚がある。

 頭が痛い。



「もうおしまいです。仮に私たちがこの怪異をどうにかして封じましたなんて言ってももう遅い。オカ板で、ここまで拡散されたらもうどうしようもない。釣りが釣りじゃなくなったんですからもう無かったことにもできない」



 頭がクラクラする。窓口が何やら騒がしい。ぼんやりと聞こえてくる。音が遠い。



「今村長が窓口対応してますね。内容を当てましょうか?『バケモノが出た』ですよ。入口で泣きそうな顔をしていたのが見えました。それに全力で走ったのかすごい息を切らしていましたからね。そういうところまで来たんでしょうね。奥富さん、聞いていますか?」



 窓口ではまさに命からがら逃げ込んだというような形相で村長にまくしたてる女性が見える。ただ、やたら暗い。そして寒い。



「奥富さん。奥富さんってそんな体毛濃かったでしたっけ。腕もそんなに太かったでしたっけ。そっか、奥富さんはそっちで整合性を取るんですね」



 音が遠い。目の前が暗い。佐藤さんが何か言っている。そうか、これは眠いのか。



「奥富さん、本当にすいません。こんなことになるとは思ってませんでした。なんとか解決策を練りますから、だからそれまで頑張って……」



 ……




 …………




………………………………



























 滝つぼに浮いたのは赤い眼鏡だった。

 僕はその眼鏡を手に取り祠に供える。



 なぜそうしないといけないのかは、よくわからない。
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