会社を辞めたい人へ贈る話

大野晴

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8.井の中の蛙

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 例えば、大工さんが1日働いたとすると、国の基準で定められた賃金は約2万5千円です。(2022年作者調べ。)
 こう言うふうに、電気工事、配管工事、はたまた潜水士など、様々な技術者には標準の単価があります。

 ただ、それは国が定めた理想の賃金で、実態はそうではありません。金の無い案件では技術者が安くコキを使われるのが現実です。

 僕はアルファポリ商会で、数字のために技術者を安くつかう様になっていました。

 数字に追われる適当課長が打ち出した、受注を増やす方針。その方針のため、他社の仕様に追いつくために無理矢理なシステム構成を組み、その金額的な皺寄せは技術者に行く。

「本当にすみません・・・でも、いつか余裕のある案件でお返しします・・・」
 僕はオタスケシステムの社長に毎度頭を下げ、相場の十分の一の値段で仕事をしてもらってました。アルバイトの時給が十分の一になったらどうでしょう。そういうことです。

 数字に追われ、付け焼き刃で案件を獲得し、頑張っても利益は5%程度。技術者にはやっかみを言われ、頑張っても残るのは受注の数字だけで、会社に残る利益は消えていきます。

 本当に意味があるのだろうか。

 僕はそんな自問自答を続けながら、仕事を続けていました。

 自分で言うのもおかしいのですが、コミュニケーション能力はある方で、いつの間にかオタスケシステムの技術者とは仲が良くなり、安値でも仕事をやってくれる様になっていたのです。

 まぁ、つまりは、なぁなぁの関係で良く無いことをズルズルと続けていたのです。

 僕は笑顔を保ち、利益の少ない案件をこなし、数を打っていきました。

 苦しいながらもそれでやっと自分のノルマを達成出来た時はやり甲斐がありました。

 適当課長も褒めてくれると思いきや

「俺が若手の頃はもっと仕事取ってきたんだ」

 などと褒めてくれる事はありませんでした。そんな事もあってか、2018年の1月頃から僕はこっそり転職活動を始めました。

 そこで気が付いたのです。

 自分が何者でも無いことに。

 資格なしのただの営業。システムを販売していただけの3年ちょっと。そんな人間を欲しがってくれるところは無い様に思いました。

 僕は井の中の蛙だったのです。

 ー〝ノルマを達成した〟ー

 若手に与えられた少ないノルマは自慢できるほどではありません。

 ー〝協力会社と円滑にコミュニケーションを取り・・・〟ー

 いわゆるコミュ力というものは社会に出れば自然に身に付いて当たり前です。

 ー〝御社の活動に興味がありまして〟ー

 そもそも現職もただ受かったから始めただけ。仕事に対する熱意なんて無い。

 僕は路頭に迷っていました。そして日に日に金の少ない案件に振りまされ、逃げようとしても自分が社会的に見てザコだった事に気づいたのです。
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