会社を辞めたい人へ贈る話

大野晴

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11.自分に帰ってくる言葉

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 田口さんの所謂バックれの騒動は終息し、なんとか案件を終えた10月。僕は疲れ切っていた中、彼女にプロポーズをし、結婚しました。

 不思議なもので、家庭が上向きになれば、仕事も上向きになります。社内の人達も、新卒で入ってきた僕が結婚となれば、あの新人が遂に!みたいな感じで家族の様に喜んでくれました。

 さて、2019年はある意味世間も転換期でした。元号は平成から令和に。そして、年末には、世の中に多大な影響を与える、新型ウイルスの流行の足音が聞こえ始めたからです。

 僕は2021年にうつ病を患い、退職に至りました。もうすぐ、その出来事も近づいています。

 アルファポリ商会宮城支店は、アルファポリ商会北日本支店と無駄な名前を変え、組織変更が行われたりしました。

 田口さんの一件から遡る事、2019年の4月。私には、はじめての後輩が出来ていました。左鳥(さとり)くんと呼びます。今の若者はZ世代だとか、そういう呼ばれ方をされていますが、私の時に入った世代は、悟り世代と呼ばれていました。

 ちなみに私はゆとり世代です。

 今考えれば、佐鳥くんもただ何となく入社したのだと思います。ここしかなかったから、入社してくれたのでした。

 その時の私は、初めて出来た後輩に喜び、最大風速の先輩風を吹かせていました。何故なら仕事もプライベートも絶好調。いい姿の俺を見ろと、張り切っていました。

 佐鳥くんははっきり言って出来が悪かったのですが、憎めないやつだったので、私は好きでした。他の社員の評判はイマイチでしたが、輝けるところを伸ばせば、何とかなると、思っていました。

 ただ、佐鳥くんにとって、公共のお客様を相手取ることや必須システムという少しだけ難解なモノを理解するのは苦痛だったそうです。
 ネガティブな気質の彼は、案件が上手くいくかどうかの心配ではなく、自分がやっていけるかどうかの心配ばかりしていました。

「今は出来なくて、分からなくて大丈夫。ただ、楽しみを見つけるといいと思う」

 それは僕が佐鳥くんに伝えていたことです。俗にいう仕事の〝やりがい〟というやつです。1年目で全てを理解する必要はないけれど、必須システムを納めた結果、どのような社会貢献が出来るのか?それを考えて欲しかったからです。

 公共のお客様を相手にすると、自分の日常生活で目にするモノを納めることがあります。自分の仕事が国民の生活の役に立っているという事は、私的にはわかりやすい〝やりがい〟でした。

 ただ、それは私にとっての話でした。

 佐鳥くんは常々、この仕事は自分に合ってないと入社して間も無く言っていました。そして一話分で収まるように、彼は半年で退職したのです。

 私は残念でなりませんでした。

 しかし、実はその後私が退職し、再就職するにあたって、その言葉は自分に刺さる事になります。

 この文章を書き始めた2022年3月。私はその後、新たな会社で働き始めました。そして、佐鳥くんと同じく、退職する事になったのです。それも後ほど、書き記していきたいと思います。
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