ボディガード -触れられないお姫様-

大野晴

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バック・スタバー(:起 大きな借り)

21 鹿美華定例会議

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 都内。オフィスビル街。建ち並ぶ様々なガラス張りのビル群。その中にはあたりまえの様に鹿美華のビルがある。

 鹿美華琥太郎は長机に足を乗せ、ぶはぁと行儀悪くタバコを吸っている。白のタンクトップにかかる灰などどうでもよかった。

 鹿美華ビル会議室。

「これより、定例会を開始します」




《鹿美華財閥》
 会議室のど真ん中にいるのが無礼な男・鹿美華琥太郎。

《鹿美華シークレットサービス》
 その右隣で優しく見守るのが英国紳士・枝角若草。

《鹿美華ファンド》
 琥太郎の左隣には青仮面・幕田沙羅。

《医療法人鹿美華会》
 向かって斜め前には名医・狭間白男。

《鹿美華重工》
 兵器担当、鹿美華重工のトップ豊田とよだ産日さんじつ

 計5名。鹿美華琥太郎と4社の代表たち。琥太郎の態度のデカさにいつもこの会議は空気が重々しい。
 このメンバーは鹿美華家の頭脳である。各企業が各々の株を持ち、各企業の株の過半数は鹿美華琥太郎が保有している。
 この4社は鹿美華四強などと言われており、関連企業のトップの位置に君臨している。このメンバーは経営の決定権や手出しをできる他・・・

 小姫の特異体質の事を知っている。

「みんな楽にしてくれよなオイ」
 琥太郎は笑っている。

「では、参りましょう」と若草。
 リモコンを押すと部屋の明かりが消え、プロジェクターがスクリーンに画面を映し出す。
 定例報告会の時間だった。
 ひとりずつが作成した資料を映し出しながら、報告を行う。各自、直近の収支状況やイベント・トピックを喋っていく。

 全ては琥太郎にとって退屈なものであった。

 さらなる、買収によるグループ拡大を目標とする鹿美華ファンド。
 鹿美華関係者へのワクチンの無料接種を発表する鹿美華病院。
 S3代表枝角若草は次年度の採用計画を発表。
 鹿美華重工は先日律が戦った機械猟犬の実戦結果報告を行う。

「以上ですが、琥太郎様からは何かありますか?」
 いつもであればそこで適当な言葉を吐き、場を切り上げる琥太郎だが、その日は異なった。


「この中に裏切り者がいる」


 その言葉に、部屋の空気が凍りついた。心当たりの無い者を含め、その恐怖に圧されている。琥太郎には大方の見当はついていたが、確信が持てない。自分の命を狙う裏切り者の存在を確認しているだけであり、それがここにいるメンバーの誰かである事は彼なりに見当がついているが、その先は分からない。
 そういうわけで揺さぶりをかけてみることにした。

「俺のタマならいくらでもくれてやるが、小姫は別だ。俺はお前らを泳がせているに過ぎない。小姫を狙ってるヤツを確定したら、焼き殺してやる」

 その場にいた誰もが、鹿美華琥太郎の残虐性を知っている。煙草で根性焼き、そんな生ぬるいものではないことを皆が想像した。

「楽しみに待っていろ」

 無言のまま、会議は終了する。



 授業も終わり教室を離れようとする3人。律はるりがひとりでノートに何かを書き留めていることを気になってしまった。

「おい、蜜葉。それ何書いてんだよ」
「ボディガード対決のルールを羅列していましたのよ」
 ノートにはびっしりと文字が敷き詰められている。

 それを見て律はなんとなく思った。

「お前、友達いないだろ」

 その言葉に、漫画の様に顔を赤らめ、胸を揺らしながら立ち上がり腕を真下にピン、と伸ばす蜜葉。
 図星である。しかし、律の誘いに乗ってはならないと瞬時に判断する。

「貴方達は武器を使うのかしら?」
 話題を逸らするり。
「まぁ使えるなら使うけど?」
 悪意の無いその飄々とした口ぶりにるりの怒りは沸点へ達する。

「じゃあ、書き加えておきますわよ。武器の使用を認める、ってふふふ・・・」
 不敵な笑みを浮かべるるり。

「おけ、じゃ。今週末な」

 そう言って律達はその場を離れた。

「良いマイクパフォーマンスじゃない」
 小姫が律を褒める。その裏腹で、複雑な気持ちがあった。自分にとって、律や優花里は友達なのか?という不安。でも、それは聞けずにいた。

「武器使って良いらしいぞ」
「なら、本気で行くの」
「あのふたりも強そうだもんな」
 そのまま律はリーフォンを操作しアプリケーション〝ウェポン〟を起動。起動した画面の先に進めない。

「ちょっと待て、許可出てないぞ」
「マジなの!?」

 小姫はため息をつく。
「当たり前でしょ。お父さんからも言われてるの。派手な事するな、って」
「ちょ!言ってくれよ小姫!」
「頑張りなさいよ、体術で」
 小姫は律達が武器を使えない事をなんとも思っていない。それぐらいに信頼を置いている。

 そんな歩きスマホをしている律の肩にぶつかる腕。

 タキシード姿の屈強な男がふたり立っている。
「あっ・・・」と律。

「歩きスマホとは、実に余裕だな」
 野太い声で律を非難したのは、るりのボディガードのひとり・火油ひあぶらである。
 律は返す言葉が無かった。

「こんな奴らと試合とは、恥ずかしいばかりだ」
 もうひとりは甲高い声で喋る。名前は水野みずのだ。

「ぶつかって、ごめん」律は軽く謝った。
「すまんの」優花里も謝る。

「それにしても、弱々しいだったな。大丈夫か?」と火油。
「俺たちはラグビー部出身。お前らは文化部か?」と甲高い声で笑う水野。

「レベルの低いやりとりね。行きましょ」
 小姫が先導する。
 タキシード2人組を無視する様に進む3人。

「ワタシ、声が高いヤツが嫌いなの」
「じゃあ優花里の相手はアイツな」
「律は野太い方ね」
「オッケー」

 見るからに不利な体格差。そして武器の使えないふたり。試合の内容が分からないが、それでも負ける気はしなかった。
 ふたりは少しだけではあるが、経験を積んでいる。大きな経験だ。

「・・・それにしても律。歩きスマホはダメ。私を見ていて」
 小姫が注意をする。小姫はこの台詞を言うのに勇気を出した。

「そうだの律。蜜葉のおっぱいばかり見て」
「ちょっ!そんなんじゃねーし!」



 鹿美華定例会議終了後。鹿美華琥太郎は、医師・狭間白男と酒を嗜んでいた。都内某所、限られた会員証を持つ者だけが入店を許される高級店、その個室。

「琥太郎。裏切り者の存在を出すなんて、随分と思い切ったじゃないか」
 狭間はにやけながら対面にいる琥太郎に語りかける。

「思い切りでもねえ。少しずつ追い込んで、確証が得られた所で痛ぶるつもりだ」
「見当はついてるのか?」

「ご想像の通りだよ」

「琥太郎。お前の心配はしてないし、極論お前は死んでもいい。でも、小姫ちゃんは守るって俺たち決めたからな」
「昔の話か」
「下手な動きをして、小姫ちゃんに何かあると困る」
「ああ・・・」

 ただ、琥太郎の記憶では半年ほど前、小姫が前の学校で誘拐されかけた一件以来、直接彼女が狙われるといった事件は発生していない。相変わらず、自分の命を狙う輩は現れるというのに小姫にまつわるトラブルというのは随分と波がある様に思えた。
 例えば、計画性が無い、と言うべきなのか。ただ、その理由は琥太郎には分からない。

「まぁ、安心しろ。俺たちは裏切らない」
「そういうの、クセえんだよ狭間」
「たまには良いだろ。昔を思い出しても」

 琥太郎の頭には思い出す気もない昔の事が断片的に再生される。

ー〝おい、琥太郎。お前は金持ちってだけだ〟ー
 若き日の狭間白男が琥太郎を指差す。
ー〝そうだぞ。お前は友達ってだけだ。上下関係はない〟ー
 カウボーイハットなんて被っていなかった頃の青三清。

ー〝俺は医者になるよ〟ー
ー〝琥太郎、僕はさ、若草サンの所に行こうと思うんだ〟ー

 幼馴染で同い年。そんなふたりがいつも琥太郎に付き纏うように、そして絶妙で心地良い距離に存在していた。

ー〝どっちだよ!男か!?女か!?〟ー

ー〝女だ〟ー

ー〝なら、警護は俺に任せろよ〟ー
ー〝何かあったら俺が手術する〟ー

ー〝うるせえな!俺ひとりで十分だ!〟ー

ー〝名前は決まったのか?〟ー

ー〝決めてねーよ。亜弥に任せる〟ー

ー〝男の癖して、名前も決めれねーのかよ〟ー

 色々な事が思い出される。酒のせいなのかもしれない。娘が産まれてから、鹿美華琥太郎の人生は大きな濁流に飲まれていくようなスピードで過ぎ去っていった。

ー〝俺たちが決めるか!?〟ー
ー〝大きなお前から産まれた・・・小さな・・・女の子か・・・〟ー
ー〝俺たちが守る、姫君って感じだよな?〟ー


「小さな姫・・・小姫だな」
「懐かしいな」
「ああ」

 琥太郎は煙草に火をつける。
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