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優しい人形
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「父さん…!僕は町になんて行かない!
女の子の友達なんて欲しくない!
だって、僕にはコハクがいるんだから!
僕は……コハクを愛してるんだ!」
「エルン!馬鹿なことを言うんじゃない!」
マーティの手が、派手な音を立ててエルンの頬を打った。
息子に手を上げたのは、マーティにとってこれが初めてのことだった。
気まずい沈黙と制止した時間の中、エルンの消え入りそうな声が響く。
「……父さん……コハクはどこ……?」
マーティの瞳が大きく見開かれ、苛立った声が飛んだ。
「コハクなら、草原だ!」
その言葉が終わらないうちに、エルンは作業場を飛び出した。
不吉な胸騒ぎを感じながら…
*
*
*
「コハクーーーーー!!!」
草原にエルンの悲しい絶叫が響き渡る…
黒く焼け焦げた一角には、もう温もりさえ残ってはいなかった。
叩きつけられ、ただの炭と姿を変えた木と陶器の欠片が無残に遺るその場所で、エルンは全身が千切られるかのように泣き叫ぶ。
泣いて泣いて泣いて…喉が破れる程叫んで…子供のように息を切らしたエルンの耳にかすかな物音が届いた。
規則的なその音はどこか懐かしく…
(……コハク……?
君なの…?)
直感的にそう感じ、エルンは耳を澄ませて音の元を探り出す…
黒い炭の中を注意深くまさぐるうちに、エルンの手に何かが触れた。
(これは……!)
それは、黒くすすけた真鍮の塊だった。
焼けていびつにはなってはいたが、元がハートの形だったことはエルンには容易に推測出来た。
(あ……)
エルンの脳裏に、幼い頃の記憶が甦った。
それは、コハクが完成間近な頃、父がコハクの身体に埋めこんだものだった。
「これは、コハクの心だよ。」
エルンの頭に、そう言って笑った父親の顔が思い出された。
「コハク……あ……」
握り締めたコハクの心がかすかに脈動しているのを感じ、エルンは再び手を開く。
それをみつめるエルンの瞳からは、止めど無い涙が溢れ出した。
「コハク……
僕……きっと、君を生き返らせてみせるから。
もう少し時間はかかるかもしれないけど…前より素敵な女性にしてあげるから…
だから、その日まで待っててね…」
手の平のコハクに微笑みかけ、エルンは歩き出した。
自分の家とは違う方向に…
(さようなら、父さん…
僕は…これからもコハクと生きていきます…)
……エルンの目の端で、コハクが嬉しそうにはしゃぎ駆け回る姿が映ったような気がした。
女の子の友達なんて欲しくない!
だって、僕にはコハクがいるんだから!
僕は……コハクを愛してるんだ!」
「エルン!馬鹿なことを言うんじゃない!」
マーティの手が、派手な音を立ててエルンの頬を打った。
息子に手を上げたのは、マーティにとってこれが初めてのことだった。
気まずい沈黙と制止した時間の中、エルンの消え入りそうな声が響く。
「……父さん……コハクはどこ……?」
マーティの瞳が大きく見開かれ、苛立った声が飛んだ。
「コハクなら、草原だ!」
その言葉が終わらないうちに、エルンは作業場を飛び出した。
不吉な胸騒ぎを感じながら…
*
*
*
「コハクーーーーー!!!」
草原にエルンの悲しい絶叫が響き渡る…
黒く焼け焦げた一角には、もう温もりさえ残ってはいなかった。
叩きつけられ、ただの炭と姿を変えた木と陶器の欠片が無残に遺るその場所で、エルンは全身が千切られるかのように泣き叫ぶ。
泣いて泣いて泣いて…喉が破れる程叫んで…子供のように息を切らしたエルンの耳にかすかな物音が届いた。
規則的なその音はどこか懐かしく…
(……コハク……?
君なの…?)
直感的にそう感じ、エルンは耳を澄ませて音の元を探り出す…
黒い炭の中を注意深くまさぐるうちに、エルンの手に何かが触れた。
(これは……!)
それは、黒くすすけた真鍮の塊だった。
焼けていびつにはなってはいたが、元がハートの形だったことはエルンには容易に推測出来た。
(あ……)
エルンの脳裏に、幼い頃の記憶が甦った。
それは、コハクが完成間近な頃、父がコハクの身体に埋めこんだものだった。
「これは、コハクの心だよ。」
エルンの頭に、そう言って笑った父親の顔が思い出された。
「コハク……あ……」
握り締めたコハクの心がかすかに脈動しているのを感じ、エルンは再び手を開く。
それをみつめるエルンの瞳からは、止めど無い涙が溢れ出した。
「コハク……
僕……きっと、君を生き返らせてみせるから。
もう少し時間はかかるかもしれないけど…前より素敵な女性にしてあげるから…
だから、その日まで待っててね…」
手の平のコハクに微笑みかけ、エルンは歩き出した。
自分の家とは違う方向に…
(さようなら、父さん…
僕は…これからもコハクと生きていきます…)
……エルンの目の端で、コハクが嬉しそうにはしゃぎ駆け回る姿が映ったような気がした。
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