お礼（無謀）企画

海辺の灯台

１

（あれか…？
あれが噂の天国の灯台なのか？）



アーロンは、前方に佇む灯台をじっとみつめた。
人気のない海辺の岬の突端に、その灯台はひっそりと建っていた。
色褪せ風化した煉瓦が、その灯台が古いものであることをうかがわせた。



（だけど、あんなに小さな灯台じゃ違うかな……）



死に場所を探して旅に出た先で、アーロンは奇妙な噂を耳にした。
この世界のどこかに「天国の灯台」と呼ばれる場所があるという。
そこに灯りが灯ったことはなく、灯台守りがいるのかどうか、そもそも、そんな意味のない灯台を誰が何のために建てたのさえわからない。
気の遠くなる程の階段を上り詰めると、そこはあの世なのだと言う。
なんとも馬鹿馬鹿しい話だが、アーロンはそれこそが自分の旅の最終地点のような印象を受けた。
そして、行く先々で本当に存在するかどうかもわからない天国の灯台のことを尋ねて周った。
いつの間にか、アーロンの旅は一年を超え、さすがにそんな話はただのでまかせだと諦め始めた頃、この近くの町である老人から天国の灯台の場所を聞きこんだ。



（あれがもし天国の灯台だとしたら……もしかしたら…僕みたいな人達があそこから海に身を投げたのかもしれない…
あんな古い灯台に灯台守りなんていそうにないし、このあたりはとても人が少ないから誰にも止められずに済むのかもしれないな。
……なんだ、そういうことだったのか…
どちらにせよ、名前が良いじゃないか……「天国の灯台」なんて、ね…）



自嘲めいた微笑を浮かべながら、アーロンは灯台へ向かって歩いて行く…