87 / 289
海辺の灯台
3
しおりを挟む
「おぉ…ここを訪ねる者はひさしぶりじゃな…」
「……そ、そんな……」
扉を開けた先は小さな部屋で、揺り椅子に座った老人が、アーロンをにこやかに出迎えた。
「どうかしたのか?
ずいぶんとがっかりして見えるが……」
老人はにこやかな表情を崩さず、アーロンに尋ねる。
「だ…だって、ここは…
ここは天国のはずじゃ…」
涙を流さんばかりの切羽詰った表情で、アーロンは揺り椅子の老人に詰め寄った。
「天国?
馬鹿なことを言うな。
ここはただの灯台じゃ、そして、わしは、この灯台守じゃ。」
「そ、それではあなたが僕を天国へ連れて行って下さるんですか?」
「まだそんなことを言うてるのか。
わしは灯台守じゃぞ。
灯台に灯りを灯すのがわしの仕事じゃ。」
「ですが、この灯台には火が灯っているのを見た者はいないと聞きました。」
「それは、おそらくその者が見たことがないだけの話じゃろう…
見たことがないから、灯っていないと思うただけじゃ。」
意味のわかりにくい飄々とした老人の語り口に、アーロンは戸惑いを覚える。
「僕はこんなに苦労して上ってきたのに…
ここが天国でもなく、あなたが天国への道案内人でもないとしたら、僕は今まで一体何のために必死になっていたのか……お笑いだ…
馬鹿げた伝説を信じてこんな所までやって来て…
……こうなったら、もう僕には一つしか道はない…」
アーロンは魂の抜け殻のような瞳を外へ向け、よろよろと歩き始めた。
扉を開ければそこに広がるのは青い海…その中へ身を投じれば、ほんの僅かの苦しみの後にすべては終わる。
アーロンの人生は幕を降ろし、それと引き換えに、アーロンは長く待ち望んでいた死を手に入れることが出来る。
アーロンが外へ通じる扉に手をかけた時、老人が声をかけた。
「そうしたいならそうすりゃええ。
今の季節なら海の水もそれほど冷たくはなかろう。
だが、その前に少しだけ話をせんか?
なんせ、おまえさんは久しぶりの訪問者じゃからな。
そうじゃ、お茶でも飲まんかな?」
「引きとめても無駄ですよ。
僕はもう決めたんだ…」
「引きとめる?
わしにはそんな気はありゃせんよ。
ただ、話がしたいだけじゃ。
おまえさんもそうじゃないのか?
何か一つくらい、誰かに話しておきたいことがあるんじゃないのか?
……どうじゃな?」
アーロンは扉の前でしばらく立ち止まり、そしてゆっくりと振り向いた。
「では、お茶を一杯ご馳走して下さい。」
「……そ、そんな……」
扉を開けた先は小さな部屋で、揺り椅子に座った老人が、アーロンをにこやかに出迎えた。
「どうかしたのか?
ずいぶんとがっかりして見えるが……」
老人はにこやかな表情を崩さず、アーロンに尋ねる。
「だ…だって、ここは…
ここは天国のはずじゃ…」
涙を流さんばかりの切羽詰った表情で、アーロンは揺り椅子の老人に詰め寄った。
「天国?
馬鹿なことを言うな。
ここはただの灯台じゃ、そして、わしは、この灯台守じゃ。」
「そ、それではあなたが僕を天国へ連れて行って下さるんですか?」
「まだそんなことを言うてるのか。
わしは灯台守じゃぞ。
灯台に灯りを灯すのがわしの仕事じゃ。」
「ですが、この灯台には火が灯っているのを見た者はいないと聞きました。」
「それは、おそらくその者が見たことがないだけの話じゃろう…
見たことがないから、灯っていないと思うただけじゃ。」
意味のわかりにくい飄々とした老人の語り口に、アーロンは戸惑いを覚える。
「僕はこんなに苦労して上ってきたのに…
ここが天国でもなく、あなたが天国への道案内人でもないとしたら、僕は今まで一体何のために必死になっていたのか……お笑いだ…
馬鹿げた伝説を信じてこんな所までやって来て…
……こうなったら、もう僕には一つしか道はない…」
アーロンは魂の抜け殻のような瞳を外へ向け、よろよろと歩き始めた。
扉を開ければそこに広がるのは青い海…その中へ身を投じれば、ほんの僅かの苦しみの後にすべては終わる。
アーロンの人生は幕を降ろし、それと引き換えに、アーロンは長く待ち望んでいた死を手に入れることが出来る。
アーロンが外へ通じる扉に手をかけた時、老人が声をかけた。
「そうしたいならそうすりゃええ。
今の季節なら海の水もそれほど冷たくはなかろう。
だが、その前に少しだけ話をせんか?
なんせ、おまえさんは久しぶりの訪問者じゃからな。
そうじゃ、お茶でも飲まんかな?」
「引きとめても無駄ですよ。
僕はもう決めたんだ…」
「引きとめる?
わしにはそんな気はありゃせんよ。
ただ、話がしたいだけじゃ。
おまえさんもそうじゃないのか?
何か一つくらい、誰かに話しておきたいことがあるんじゃないのか?
……どうじゃな?」
アーロンは扉の前でしばらく立ち止まり、そしてゆっくりと振り向いた。
「では、お茶を一杯ご馳走して下さい。」
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる