お礼（無謀）企画

海辺の灯台

６

「どれだけ長く生きたかというよりも、どれだけ満足出来たか……その方が、ずっと重要だとは思わんか？」

「……だけど………
遺された者の気持ちはどうなるのです！？
あなたに、かけがえのない者を亡くした者の苦しみがわかりますか？
この胸の痛みがあなたにわかりますか！？この寂しさが……」

そこまで言うと、アーロンは頭を抱えて深くうな垂れる。



「……その気持ちがわからんとは言わん。
じゃが…それを言うなら、おまえさんにはエレーナの気持ちはわからんのか？
いくら子供を助けることが出来たとはいえ、愛する人を遺して先に逝かねばならんかった彼女の想い…
命懸けで言い遺した言葉を信じてもらえん空しさをわかってやらんでええのか？」

アーロンは、はっとしたように顔を上げ、涙で潤んだ瞳で老人をみつめた。



「信じたい…僕だって彼女の言葉を信じたい…
でも、目に見えないってことはとても悲しいことで…とても不安なことで…
……僕は、彼女を失ってからずっと真っ暗な洞穴の中にいるみたいに感じてました。
どこにも灯りがみつからない…
だから、どっちに歩いていけば良いのかもわからない…歩き出すのも怖い…
ほんの小さな灯りでも良い…灯りが見えればその方向に歩いていけるのに。
この灯台は、そんな時にみつけた小さな灯りのようなものでした。
ここへ来れば天国へ行ける…エレーナのいる天国に行ける…エレーナに会える…！
その想いだけが僕をここまで導いてくれたんです。」

「さて、そんな風にうまくいくもんじゃろか…
エレーナは、今、おまえさんの傍で泣いているかもしれんのう。
おまえさんが苦しんでいるのを見て、それを自分のせいのように考えて心を痛めているかもしれんな。
信じてももらえん相手のことで死んでからまで悩まされるとは、エレーナという女性は本当に気の毒なことじゃ。
そして、おまえさんもな。
そんな重い心を抱えていたんじゃ、おそらく天へは上れんじゃろうからな…」

「や…やめてくれーーー！」

老人の言葉によって心をかき乱されたアーロンは、叫び声を上げ、堰を切ったように激しい嗚咽が始まった。
老人は、そんなアーロンのことを気にもしていないように悠然と茶を注ぎ、湯気の立ち昇るカップに口を着けた。