169 / 289
傷だらけの掌
3
しおりを挟む
「相当、腹が減ってたようだな。」
「……まぁね。」
少女はぺろりとパンをたいらげ、果物と缶詰は持っていた袋に仕舞った。
「それじゃあ、気を付けて…」
「おじさん、この先の町に行くんじゃなかったのかい?」
「え…あぁ、まぁそうだが…」
「なら、あたいと同じだね。
一緒に行こうよ。」
少女はそう言って、俺の手に指を絡ませ、そして何かに気付いたかのように俺の掌を上向けた。
「……どうしたの?この傷……」
「……ちょっと、な。」
「ふ~ん、わけありなんだ。名誉の負傷?
じゃ、行こうよ。」
少女は年の頃は十歳と言ったところだろうか?
背丈もそう大きくはなく、痩せこけてはいるが、目にはとても強い力があった。
「君は、いくつだ?
名は何という?」
「年は多分十二。
名前は、ラナってことになってる。」
「ずいぶんおかしなことを言うんだな。
自分のことなのに、なぜ『多分』なんだ?」
「だって、あたい、物心付いた時には、もう親がいなかったんだ。
なんでも、あたいの親は戦争で死んだってシスターが言ってたよ。
名前もシスターがつけたんだ。
あたいは孤児院で育ったんだけど、そこも戦争でなくなって、八つの時からは一人で生きてる。」
俺はラナの横顔をじっとみつめた。
今の話は本当のことだろうか?
八つの子供が…まして、戦時中のこの国で一人で生きることなんて出来るのだろうか?
「おじさんの家族は?」
「……え…?
……俺の家族は…今はいない。」
「戦争でやられたのかい?」
事も無げに放たれたその言葉に、俺はいささか不快な気持ちを感じたが、ラナに悪意がないこともわかっていた。
先程の話が本当なら、自身も親を戦争で失っていることになるのだから。
ただ、この少女はそれがどういうことなのかを知らないだけなのだろう。
「……そうだ。」
「そいつは大変だったね。
皆、やられちまって、おじさんだけが生き残ったってことかい?」
「……その通りだ。」
「あたいと同じだね。
でも、そう気に病むことはないさ。
そんな奴はあたい達以外にも山程いるよ。
どれほど悲しんだ所で、死んだ者は帰らない。
だけど、この世界には女もいっぱいいるんだし、また良い人をみつければ良いだけの話さ。
そして、新しい家族を作れば良いんだよ。」
俺は苦笑するしかなかった。
そんな風に考えることが出来たなら、俺だってもっとずっと楽に生きられただろうに…
「……まぁね。」
少女はぺろりとパンをたいらげ、果物と缶詰は持っていた袋に仕舞った。
「それじゃあ、気を付けて…」
「おじさん、この先の町に行くんじゃなかったのかい?」
「え…あぁ、まぁそうだが…」
「なら、あたいと同じだね。
一緒に行こうよ。」
少女はそう言って、俺の手に指を絡ませ、そして何かに気付いたかのように俺の掌を上向けた。
「……どうしたの?この傷……」
「……ちょっと、な。」
「ふ~ん、わけありなんだ。名誉の負傷?
じゃ、行こうよ。」
少女は年の頃は十歳と言ったところだろうか?
背丈もそう大きくはなく、痩せこけてはいるが、目にはとても強い力があった。
「君は、いくつだ?
名は何という?」
「年は多分十二。
名前は、ラナってことになってる。」
「ずいぶんおかしなことを言うんだな。
自分のことなのに、なぜ『多分』なんだ?」
「だって、あたい、物心付いた時には、もう親がいなかったんだ。
なんでも、あたいの親は戦争で死んだってシスターが言ってたよ。
名前もシスターがつけたんだ。
あたいは孤児院で育ったんだけど、そこも戦争でなくなって、八つの時からは一人で生きてる。」
俺はラナの横顔をじっとみつめた。
今の話は本当のことだろうか?
八つの子供が…まして、戦時中のこの国で一人で生きることなんて出来るのだろうか?
「おじさんの家族は?」
「……え…?
……俺の家族は…今はいない。」
「戦争でやられたのかい?」
事も無げに放たれたその言葉に、俺はいささか不快な気持ちを感じたが、ラナに悪意がないこともわかっていた。
先程の話が本当なら、自身も親を戦争で失っていることになるのだから。
ただ、この少女はそれがどういうことなのかを知らないだけなのだろう。
「……そうだ。」
「そいつは大変だったね。
皆、やられちまって、おじさんだけが生き残ったってことかい?」
「……その通りだ。」
「あたいと同じだね。
でも、そう気に病むことはないさ。
そんな奴はあたい達以外にも山程いるよ。
どれほど悲しんだ所で、死んだ者は帰らない。
だけど、この世界には女もいっぱいいるんだし、また良い人をみつければ良いだけの話さ。
そして、新しい家族を作れば良いんだよ。」
俺は苦笑するしかなかった。
そんな風に考えることが出来たなら、俺だってもっとずっと楽に生きられただろうに…
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる