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貴方のための涙

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 (メイスフィールド様……)



 手術は成功し、メイスフィールドは一命をとりとめた。
とはいえ、彼の意識は回復せず、医師たちに聞いてもこれから先のことは様子を見ないとわからないとのことだった。



シャーリーはつきっきりで献身的にメイスフィールドの世話をした。
 大量に血を採った後だというのに、眠ることさえ惜しんで彼に付き添い、その間に家に戻って弟達の面倒を見、さらには母親の病室にも見舞った。
そんな毎日が一週間程経った頃、ようやくメイスフィールドの意識が戻った。
 幸いなことに、大きな後遺症も見受けられず、それからは回復の速度も進んで行った。



 *



 「シャーリー、おまえにはずいぶんと世話になったな。」

 「いえ、私は何も……」

 「医師達も感心していた。
お前は、私に血を分けてくれただけではなく、意識を失っている間も、ずっと献身的に世話をしてくれていたそうだな。
 私は……おまえとリチャードの仲を引き裂いた。
なのに…なぜ……」

 「メイスフィールド様…
私とリチャードが釣り合わないことは誰が考えたってわかることです。
 反対されるのは当たり前です。
それに、母のことも家のことも良くしていただいて…私は本当に感謝しているんです。」

 「……そうか。」

メイスフィールドは、遠くをみつめ、ぽつりとそう言った。



 「メイスフィールドさん、お宅への連絡はどうしましょう?」

 「そうだな…すまないが、ブラウンに手紙を書いてくれないだろうか。」

 「わかりました。」



その後、しばらくして、ブラウンが診療所を訪れ、それからさらに十日程経った頃、メイスフィールドはブラウンに付き添われ、診療所を離れた。



 (良かった…メイスフィールド様がお元気になられて、本当に良かった……)

 小さくなる馬車を見送りながら、シャーリーは一粒の涙を流した。
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