泉の精霊

ルカ(聖夜月ルカ)

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泉の精霊Ⅱ

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フォルテュナは、柄杓で泉の水を掬い、男の前に差し出した。



「フォルテュナ様!
ありがとうございます!」

しかし、その水は男の身体をまるですりぬけるように地面にこぼれ落ちた。



「こ、この水は一体…!
フォルテュナ様、お戯れは程ほどになさいませ!」

フォルテュナは、何も言わず、もう一度泉の水を掬い、男の前に差し出した。
男は水を飲もうとするが、やはり先程と同じことの繰り返しだった。



「フォルテュナ様!」

男は、激しい怒りに身体を震わせた。



「……あなたはまだ気付いてないの…?
僕は、なにもしちゃいない。
泉の水をあなたにあげただけなんだよ…」

「で…ですが、水は…」

「何度も言いたくないんだけど…僕はなにもしてないんだよ。
水が飲めないのは、あなたの問題なんだから…」

「私の…?」

男の表情が変わった。



「人に認めてほしいって言う前に…
あなたは、自分の身に起こったことを…現実を認めなきゃ…」

「私の身に起こったこと…」

「そう…あなたは、もう何年も前に死んだ…
よく思い出して…
あなたは、暗い地下室で魔法の薬を調合していた。
その時、不幸な出来事が起こったんだね。
薬は、爆発を起こし、そこらにあった器具がばらばらに砕け散ってあなたはその破片を全身に浴びて死んだ…
死にたくないと叫ぶ暇さえなかったね。
あっという間のことだった。」

「そ…そ、そんなこと…
嘘だ…嘘だ!
私は現にこうして今ここに…」

男は俯き、何度も首を振っている。
男の肩が、激しくわなないていた。



「気の毒だと思うよ…
ずっと寂しい想いをして来て、そして、死んでからもあなたの遺体は誰にも気付かれることなく、今もあのままなんだから…
でも、それが現実…不幸だったけど、それがあなたの人生だったんだ…」

「そ……そんな…
そんなことって……」

男はそう呟いたきり地面に突っ伏し、それからしばらくの間、顔を上げることはなかった。



「あなたが手に入れたと思った力は、死んだ者なら誰もが持つもの…
残念ながら、あなたは力も手に入れたわけじゃなかったんだ…」

「……お願いですからもう何も言わないで下さい。」

「そう…わかった…
じゃあ、早く行くべき所に行くことだね。
そして、今度は良い人生を…」

フォルテュナは、空を仰ぎ見た。



「…どうせ、今度もろくな人生じゃありませんよ。」

「そうかな?
あなたは、ここへ来てあなたが本当に欲しかったものに気が付いたんじゃなかったっけ?
欲しかったのは、特殊な力などではなく愛情だったってことに…
……それを忘れないでいたら、きっと今度はうまくいくよ。
この次は、同じ失敗はしないと思うよ。」

白羽扇をゆっくりと動かしながら、フォルテュナは独り言のようにそう呟いた。



「……フォルテュナ様…!」

男の潤んだ瞳が大きく見開かれ、フォルテュナをじっとみつめた。



「フォルテュナ様…ありがとうございます…
そうですね…あなたのおっしゃる通りです。
私は絶対に忘れません。
この人生の失敗の原因を…私が本当に欲しかったもののことを…そして、あなたのことを…
胸に刻んで…行きます…」

男がそう言いきると、男の身体が眩しい光に包まれていった。
光はゆっくりゆっくりと、空へ向かって上って行く…



「…ありがとう…フォルテュナ様…」



最後にそんな声が聞こえたような気がして、フォルテュナは目を細め、空を仰いだ… 
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