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王子

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「ディオニシス様…大丈夫ですか?
ルーカス様を呼んでまいりましょうか?」

 「大丈夫だと言ってるだろ!」

 「も、申し訳ございません!」

ラビスは地面に頭をこすりつけ、ディオニシスに非礼を詫びる。



 「あ……そんなことやめておくれよ。
……大きな声を出してすまなかったね。
 僕…ちょっと、混乱して…」

 「いえ、僕が悪いんです。ディオニシス様のお心を乱すようなことを言って…」

 「そうじゃないよ。
 君は少しも悪くない…」

ディオニシスはゆっくりと立ち上がると、ラビスに手を差し伸べる。



 「ディ、ディオニシス様…!」

ただそれだけのことで、感激したように目を潤ませるラビスに、ディオニシスはまた心が温かくなるのを感じた。



 (焦っても仕方がないんだ…
とにかく、今は身体のことだけを考えよう。
 体調が回復すれば、脳の機能も回復して記憶も戻って来るだろうって、オレスト医師も言ってたじゃないか。
そうすれば自然とわかるはずだ。
そう、このカードがここにあるわけもきっとわかる…)



 「……えっと、君は確かラビスだったよね。
すまないけど、もうしばらくその箱を預かっていてもらえないかな?」

 「は、はい、わかりました!
この箱は命に代えても必ずお守り致します。
 幸い、この温室は僕は取り仕切っておりますから、めったなことでは他の者は立ち入りませんしここに隠しておけば心配ないと思います。」

 「頼んだよ。
それと、今日、こんな話をしたことも誰にも言わないで。」

 「もちろんです!」

 「じゃあ、そろそろ戻ろうか。
あんまり遅いと、ルーカスさんが心配するだろうからね。」

 部屋へ戻ったディオニシスは、話しているとなんとなく記憶を取り戻せそうな気がするとのことを理由に、明日からラビスに身の周りの世話を頼みたいと申し出た。

 
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