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王子

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ディオニシスの希望通り、次の日からラビスは彼の世話役として通うようになった。
 今までは必要以上に彼の体調を気遣い、誰も長い話をしなかったため、ディオニシスは今いる場所が城ではなく別荘のような場所である事と、ディオニシスがリンガーという国の王子であること、彼には兄弟はいないこと…後は、彼にまつわる話や事故の時の様子を少し聞かされただけだった。
しかも、ディオニシスがなにか質問をしようとすると、身体に障るとのことで話は打ち切られてしまう。
 医師やルーカスは常に忙しいこともあり、自分の無駄話にそう時間を割くことは出来ないのだとディオニシス自身も諦めていた。
その点、ラビスはルーカスやオレスト医師に比べると、仕事の融通が利く。
 他にも庭師は大勢いるため、ラビスはほぼつきっきりでディオニシスの世話を務めた。



 「君が来てくれてから、僕はいろんなことを知ることが出来たよ。
ありがとう。」

 「もったいないお言葉を…!
 僕は、ディオニシス様のお世話が出来るだけで幸せなのです。
 礼なんておっしゃらないで下さい。」



ラビスの話によると、ここはリンガーの東の地にあたるらしい。
 大きな窓から見える険しい山並み…それはトラニキアと呼ばれる山脈で、そこを境にロージックという隣国になるということだった。
ロージックとリンガーは、戦争こそしていないものの遥か昔から両国の間に国交はない。
リンガーの者はロージックに行く事は禁止されており、その逆もまた同じだという。



 「でも、どうして?
 隣同士なら仲良くすれば良いのに…」

 「ディオニシス様、トラニキア山脈には伝説の宝があるとされております。
それをめぐって古くより長く激しい闘いがあり、そのことを憂い、神が一夜にしてトラニキアをあのような高く険しい山並みに変えたという伝説があるのです。」

 「そんなことを信じて、今でも両国の国交は断絶してるのかい?」

 「ディオニシス様!滅多なことを言われるものではございません!
あの山には本当に宝があるのです。
それをどちらが先にみつけだすかということには、とても大きな意味がございます。
 今でもリンガー、ロージック両国の探索隊や各国のトレジャーハンター供が、日夜、宝を探しているのですよ。
そして、その大半はあの山で消息を絶っております…」

 「それじゃあ、そんな伝説のために多くの者が命を落としてるというのかい?」

ディオニシスにはなんとも信じられない話だった。
 遥か昔からの言い伝えを、国民の多くがそれほどまでに信じているということが…
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