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微笑みに潜む悪意
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「ディオ!良かった!
元気になって!」
マウリッツはディオニシスとは同い年だということだったが、その身の丈はディオニシスより頭一つ分大きく、肩幅もずっと広く体付きは筋肉質で逞しい。
抱き締められたディオニシスは、まるで自分がか弱い女性にでもなったような気がした。
「あ…ありがとう。
遠い所からわざわざ訪ねてくれて…」
(こんなに体格の良い奴に襲われたら、僕なんて一溜まりもないぞ…)
ディオニシスは、心の中でそんなことを考えながら、マウリッツの身体を押しやるようにして我が身を離す。
「ディオ…どうしたんだ?
えらくよそよそしいんだな。」
「マウリッツ…ディオニシスは、見ての通り、体調は良くなったんだが、実は記憶がまだ戻らんのだ。」
傍らの国王が、言いにくそうに小さな声で呟いた。
「記憶が…!?」
国王はゆっくりと頷く。
「ディオニシスは、頭の怪我のせいでまだほとんどの者のことを思い出せんのだ。
オレストも今は様子を見るしかないと言っておる。
こういうことは頭に傷を負った者にはよく見られることらしく、すぐに治る者もおれば、そうではない者もおり、時を待つしかないのだそうだ。」
「そうだったんですか…
ディオ、知らなくて悪かったな。
なぁに、心配はいらないさ。
オレスト医師は、他に類を見ない名医だ。
瀕死のおまえをこんなに元気な身体に戻してくれたんだ。
そのうちにきっと記憶も戻してくれるさ!
万一、戻らなくたって、気にするな。
俺がおまえの親友だってことは変わらないからな!」
そう言って、マウリッツはディオニシスの肩を力強く叩いた。
マウリッツの顔に浮かぶ笑顔は、人懐っこく無邪気なもので、悪意を感じられるようなものではなかったが、そのことが逆にあのカードの絵柄を鮮明に思い出させた。
(とにかく、今は気を抜かず、慎重にこいつの行動を見守っていくしかないな…)
「マウリッツ、私達はここで失礼する。
夕食までゆっくりしておいてくれ。
疲れていなければディオニシスと話でもしてやってくれ。
君と話していたら、ディオニシスも何か思い出すことがあるやもしれん。」
「はい、セルギオス様。」
部屋を出る国王と王妃の後姿を目で追いながら、ディオニシスは不安な気持ちにかられるのだった。
「ディオ!良かった!
元気になって!」
マウリッツはディオニシスとは同い年だということだったが、その身の丈はディオニシスより頭一つ分大きく、肩幅もずっと広く体付きは筋肉質で逞しい。
抱き締められたディオニシスは、まるで自分がか弱い女性にでもなったような気がした。
「あ…ありがとう。
遠い所からわざわざ訪ねてくれて…」
(こんなに体格の良い奴に襲われたら、僕なんて一溜まりもないぞ…)
ディオニシスは、心の中でそんなことを考えながら、マウリッツの身体を押しやるようにして我が身を離す。
「ディオ…どうしたんだ?
えらくよそよそしいんだな。」
「マウリッツ…ディオニシスは、見ての通り、体調は良くなったんだが、実は記憶がまだ戻らんのだ。」
傍らの国王が、言いにくそうに小さな声で呟いた。
「記憶が…!?」
国王はゆっくりと頷く。
「ディオニシスは、頭の怪我のせいでまだほとんどの者のことを思い出せんのだ。
オレストも今は様子を見るしかないと言っておる。
こういうことは頭に傷を負った者にはよく見られることらしく、すぐに治る者もおれば、そうではない者もおり、時を待つしかないのだそうだ。」
「そうだったんですか…
ディオ、知らなくて悪かったな。
なぁに、心配はいらないさ。
オレスト医師は、他に類を見ない名医だ。
瀕死のおまえをこんなに元気な身体に戻してくれたんだ。
そのうちにきっと記憶も戻してくれるさ!
万一、戻らなくたって、気にするな。
俺がおまえの親友だってことは変わらないからな!」
そう言って、マウリッツはディオニシスの肩を力強く叩いた。
マウリッツの顔に浮かぶ笑顔は、人懐っこく無邪気なもので、悪意を感じられるようなものではなかったが、そのことが逆にあのカードの絵柄を鮮明に思い出させた。
(とにかく、今は気を抜かず、慎重にこいつの行動を見守っていくしかないな…)
「マウリッツ、私達はここで失礼する。
夕食までゆっくりしておいてくれ。
疲れていなければディオニシスと話でもしてやってくれ。
君と話していたら、ディオニシスも何か思い出すことがあるやもしれん。」
「はい、セルギオス様。」
部屋を出る国王と王妃の後姿を目で追いながら、ディオニシスは不安な気持ちにかられるのだった。
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