上 下
41 / 292
崩れる塔

しおりを挟む
「ディオ…実はな、今回、君をトラニキアに誘ったのには意味があるんだ。」

 「意味?……ど、どういうことなの?」

 「もちろん、マウリッツのことだ。
 彼が、何を企てているのかは、まだなにもわからない。
 彼はああ見えて、実はかなりの切れ者だ。
みながいる場所では容易に尻尾は出さないだろう。
……ディオ、実はな…私はマウリッツが君の命を狙っているんじゃないかと思ってるんだ。」

 「えっ!?」

 驚きを顕わにしたディオニシスの手を、ネストルは力強く握った。



 「大丈夫だ。
 君のことは私が命を賭けて守るから。
 探険隊の中には信頼出来る者がたくさんいる。
その中には魔導師もいる。
その者達と協力し、君をエサに…言葉が悪かったな。
おとりにして、奴の真意を探るつもりだ。
 何事かをしでかせば、そこで奴を捕えることが出来る。
……もしかしたらこんなことは君に言うべきではなかったのかもしれない。
 言わずに遂行した方が良かったのかもしれないが、考えた結果、やはり伝えておいたほうが良いと思ってな。
 君を危険な目に遭わせるのは私としても不本意なことなのだが、そうしない限り、危険は去らない。
だが、もしも、君がいやだと言うのならやめよう。
 私達は絶対に君を傷付けないつもりだが、それでも100%安全だとは言えないからな。」

 「……そうだったのか…
トラニキアへの旅にはそんなことが…
ネストル、僕なら大丈夫だよ。
 僕は、力もないし武器も使えないけど、君達がついていてくれるのならきっと大丈夫だ。」

 「本当に良いのか?
ディオ、無理はしていないのか?」

ディオニシスはゆっくりと頷いた。



 「そうか…君ならきっとそう言ってくれると思っていた。
 君は確かに昔から腕がたつタイプではなかったが、勇敢でまっすぐな性格だったからな。
 記憶は失われても、やはり性格は変わらないんだな。」

ネストルは、嬉しそうな笑みを浮かべ、ディオニシスをじっとみつめた。
ディオニシスもそれに同じように穏やかな微笑を返す。



 (ネストルはこの国の探険隊に入ってるほどのエリートだ。
それに、魔導師もついてるってことだし、トラニキアの結界の中にはいくらなんでもマウリッツの息のかかった者はいないだろう。
ネストルにまかせておけば大丈夫だ…!
マウリッツの黒い企みを暴いてみせるぞ!
 絶対にうまくいく!)

ディオニシスは、心の中で計画の「成功」を言い聞かせ、自分を奮い立たせる。
まるで、タロットの搭とそっくりなあのカードが頭に浮かぶのを阻止するかのように…
しおりを挟む

処理中です...