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魔導士

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「こちらとリンガーでは、魔導師の立場もずいぶんと違うみたいですね。
 実に興味深いお話です。」

その後も二人は、魔導師についての話を続けた。



リンガーでは特別視され、ある意味、国に守られてもいる魔導師達だが、ロージックでは国のために働く者はごくわずかで、ほとんどの者はダモンのように便利屋のようなことを職業として暮らしている。
 中にはその能力を悪事に使う者もおり、そういう者達は捕まったが最後、即刻極刑に処されるらしいが、それでも、魔導師達の悪行は途絶えることはないのだという。



 「金持ち達は、大切なものを盗まれないように魔導師を雇って結界を張り巡らせ、そしてそれをまた別の魔導師が破りに来るということも少なくはないのですよ。」

そう言って、スピロスは肩をすくめた。



 「そ、そうなんですか…」

 結界の狭間に放りこまれたとはいえ、魔法さえなかった世界の中で育ったダニエルにとって、スピロスの話はまだどこか現実離れしたものに聞こえた。



 (なんだかロージックってすごい所なんだな。
やっぱり、どう考えてもこっちの方が魔導師の数が多そうだ。
だったら、本当に魔法の力でリンガーに攻めこむことも出来たかもしれないのに、なんでそうならなかったんだろう?)



 二人がリンガーとロージックについての話を続けてるうち時は過ぎ、昼を過ぎ、夕方近くになってようやく、アドニアが店に戻った。
アドニアのその顔を見ただけで、ダニエルとスピロスは、あの腕輪が良い値で売れたことを確信した。



 「あんた、一体、どれほど大金持ちの息子なんだい!
すごいよ!
この店が何十軒も買えるくらいの値が付いた。
 全額は揃えられなくて残りは来週受け取ることになったよ。
 今日は半分だけもらって来たんだけど、これだけありゃあ魔導師を雇うどころか何十年も遊んで暮らせるよ!」

アドニアは金貨で膨らんだ大きな皮袋をテーブルの上に無造作に置いた。
いかにも重そうなその袋に、スピロスも目を丸くして驚いた。 
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