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王女

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 「なんだって!
ハンターがそんな所に!?」

アレクは、食事が運ばれて来ると、それを口に運びながらゆっくりと今までの出来事を話し始めた。
マウリッツ達がハンターにさらわれたと知り、目を丸くするアドニアに、アレクは食事の手を停めることなく小さく頷いた。



 「アドニアさん、何なんです!?
その『ハンター』っていうのは…」

リアナは、その質問に驚いた様子でダニエルの顔をみつめた。



 「あ、リアナさん……彼はその…ですね……僻地に住んでたもので、このあたりのことをよく知らないんですよ。」

リアナの態度に気付いたスピロスは慌ててその場を取り繕う。



 「そ、そうなんだよ。
ダニエルの住んでた所はものすごい田舎でね。
ねぇ、ダニエル?」

 「え…?あ、あぁ、そうなんです。
 僕、都会のことは何も知らなくて…」

 自分がうかつなことを言ってしまったことに気付き、ダニエルはアドニアの助け舟に口裏を合わせた。



 「良いかい、ダニエル。
ハンターっていうのは簡単に言うと人さらいみたいなもんだね。
そのほとんどは魔導師だ。
そして、連れて行かれるのはたいがい屈強な男達だよ。
ただ…さらわれた者達がどこに連れて行かれるのか…そこで何をさせられてるのかはよくわからないんだ。」

 「……連れ去られて、戻って来た者はほとんどいないからな…」

 「アレク!」



アドニアの叱責の声に、ダニエルの顔はみるみるうちに色を失う。



 「……じゃあ、マウリッツやウォルトさんは…」

 「ダニエル、何もそう決まったわけではありませんよ。
ただ、厄介なことには間違いありませんが、諦めるのは…」

 「その通りです!
 私も絶対に諦めません!」



スピロスの声に重なったのは、今まで黙って食事をしていたりアナの声だった。
その声は、大きくはないがとても熱がこもって力強く、部屋にいた誰もが黙りこんでしまう程のものだった。



 「……リアナの言う通りだ。」

 張り詰めた空気の中、ようやく口を開いたのはアレクだった。



 「俺も端から諦めるつもりなんてないさ。
ただな、それがとても困難なことだってことをダニエルにも知っててほしかったんだ。
ダニエル……おまえにはその覚悟があるか?
どれほど時間がかかろうとも、諦めずに最後までやり抜く決意が…」

 「……あ…あります!
マウリッツは僕にとってかけがえのない友達なんだ。
 僕に出来る事なんてないかもしれない…
だけど…僕は彼らのことを諦めることは出来ない。
だって、彼らは僕を…」

ダニエルの事情を知らないリアナの手前、スピロスはダニエルの手を握り締め、ゆっくりと頷いて見せた。
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