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scene 11
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*
エルスールは姿を黒狼に変え、森の中を走っていた。
大変な事がルシファーの身に起こったからだ。
早くトレルたちを連れて、スィーク・レノへ戻らなければ…。
風に乗る彼らのニオイを辿り進む。
それは夜が明ける少し前のことだった…。
エルスールは外出から帰ってきて、家の中の異変に気がついた。
いつもは元気に走り回っているルシファーの姿がないこと。
そして、夫人の姿もケイトの姿もないこと。
時刻は夕暮れ時である。
食事の前には全員が居間に集まり、賑やかな笑い声が聞こえているはずが、今日は静かだった。
エルスールは二階に割り当てられた自室へ行こうとして、階段のところでリンダに出会う。
「いやに静かだな、みんなどこかへ出かけたのか?」
尋ねると、帰ってきたのは意外な答えだった。
「ルシファーが倒れた?」
「そうなんです。目の前で起こった出来事に、奥様はショックで寝込んでしまわれて…」
「医者には診せたのか?」
「もちろんです。でも今の時点ではどこも悪くないと…」
リンダは暗い表情になる。
「せっかくケイトさんは悲しみから立ち上がろうと頑張ってきたのに。辛くて見てられません」
それを聞いて、エルスールはオルジェが倒れた日のことを思い出した。
大切な人を目の前で失った心の傷は、そう簡単に癒えるものではない。
それでもやっと、彼女は笑えるようになってきたのだ。
いや、努力してきたのだ。
なのにまた、同じことが繰り返されるというのだろうか…。
「ケイトの様子を見てくる」
「お願いします」
エルスールの言葉に、リンダは小さく頭を下げた。
ドアをノックして部屋に入ると、沈んだ背中のケイトがいた。
ろうそくの薄暗い明りの中、ベッドの傍らのぼんやりと座っている。
エルスールは静かに彼女の隣に立つと、何も言わずに肩を抱きしめた。
すると、彼女は辛いのを我慢していたのだろう。
エルスールにしがみつくようにして、泣き始めた。
かける言葉などない。
だからただ黙って、エルスールは彼女を抱きしめてやった。
エルスールは姿を黒狼に変え、森の中を走っていた。
大変な事がルシファーの身に起こったからだ。
早くトレルたちを連れて、スィーク・レノへ戻らなければ…。
風に乗る彼らのニオイを辿り進む。
それは夜が明ける少し前のことだった…。
エルスールは外出から帰ってきて、家の中の異変に気がついた。
いつもは元気に走り回っているルシファーの姿がないこと。
そして、夫人の姿もケイトの姿もないこと。
時刻は夕暮れ時である。
食事の前には全員が居間に集まり、賑やかな笑い声が聞こえているはずが、今日は静かだった。
エルスールは二階に割り当てられた自室へ行こうとして、階段のところでリンダに出会う。
「いやに静かだな、みんなどこかへ出かけたのか?」
尋ねると、帰ってきたのは意外な答えだった。
「ルシファーが倒れた?」
「そうなんです。目の前で起こった出来事に、奥様はショックで寝込んでしまわれて…」
「医者には診せたのか?」
「もちろんです。でも今の時点ではどこも悪くないと…」
リンダは暗い表情になる。
「せっかくケイトさんは悲しみから立ち上がろうと頑張ってきたのに。辛くて見てられません」
それを聞いて、エルスールはオルジェが倒れた日のことを思い出した。
大切な人を目の前で失った心の傷は、そう簡単に癒えるものではない。
それでもやっと、彼女は笑えるようになってきたのだ。
いや、努力してきたのだ。
なのにまた、同じことが繰り返されるというのだろうか…。
「ケイトの様子を見てくる」
「お願いします」
エルスールの言葉に、リンダは小さく頭を下げた。
ドアをノックして部屋に入ると、沈んだ背中のケイトがいた。
ろうそくの薄暗い明りの中、ベッドの傍らのぼんやりと座っている。
エルスールは静かに彼女の隣に立つと、何も言わずに肩を抱きしめた。
すると、彼女は辛いのを我慢していたのだろう。
エルスールにしがみつくようにして、泣き始めた。
かける言葉などない。
だからただ黙って、エルスールは彼女を抱きしめてやった。
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