魔法使いの沼地

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
30 / 135
魔法使いの沼地

15

しおりを挟む
「いえ…僕は……」

「さぁ、入った、入った!」

「あ……」

リオは男に背中を押され、通りに押し出された。
咄嗟のことで、たまたま向こう側から歩いて来た男と目があってしまったが、不思議なことに男はリオを一瞥しただけでいつもの悲鳴は上げなかった。



(ど…どうなってるんだ!?)

背中を押していた男がリオの前に出て、レストランの扉を開く。
そのいでたちから、男がこの店で働いている事はリオにもすぐにわかった。



「さぁ、入んな。
ちょうど、今はすいてる時間だから良かったな。
なにか食べたいものはあるか?」

男はそう言うと、リオに向かってにっこりと微笑んだ。



(…なぜだ?この人も僕のことを恐れない…
なぜ、この町の人は誰も僕を恐れないんだろう?)

わけがわからないままに、リオは店内に足を踏み入れ、カウンターの隅っこに腰掛けた。
店内には、夫婦らしき二人の男女がいたが、その二人もリオに対して何の反応も示さなかった。



「…どうかしたのか?」

「い…いえ…なんでもないんです。」

「そうか…それで、何を食べたいんだ?」

「え…あの、僕、お金があんまりないんで…」

「そんなこと、気にすんなって言ってるだろ。
じゃあ、適当に作るから待ってろ。」

店主らしきその男は、いかつい顔とは裏腹な人懐っこい微笑を浮かべ、厨房の中で調理に取りかかった。



(今日はなんで皆僕を恐れないんだろう?
……でも、本当に助かった…
これで泥棒にならずにすんだ。
だけど、ただで食べさせてもらって良いのかな…?
少しでも払えたら良いのだけど…)

リオは、どこかにお金が落ちてやしないかとバッグの底をまさぐる。



(あ……!)

リオの指が、固くて丸いものを探り当て、その顔は明るく綻ぶ。
だが、次の瞬間、その表情は暗いものに取って代わった。



(なんだ…ボタンか……
あぁ、これがお金だったらなぁ………えっっ!!)

硬貨と同程度の大きさの手の平のボタンが、一瞬にして硬貨に変わっているのを見て、リオは驚きのあまり硬貨を落としてしまいそうになる。



(ど…どういうことだ!?)

それは、高額のものではないが、ちょっとしたものを買える程度の硬貨だった。
裏を返して見てもどこもおかしな所はない。
リオは小首を傾げ、手の平の硬貨をじっとみつめる。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...