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白い雪の中で
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(畜生…やっぱり、もうやめてやる…!
この映画が俺の最後の作品だ…!)
狭い部屋の中で、俺は拳を握り締めた。
今撮影している映画の主役は、桜庭雅也。
俺と同じ年にデビューした、元アイドル歌手だ。
俺達は、年齢も同じで同じ高校の芸能コースに通っていた。
当時からライバル扱いされていたが、悔しいことに、人気は明らかにあいつの方が高かった。
CDの売り上げも、ブロマイドも売り上げも、コンサートの動員数もいつも俺はあいつに敵わなかった。
やがて、俺達も年を取り、自然とドラマや映画の仕事をするようになった。
最初の映画は、俺たち二人が主役だった。
だが、いつしか、主役は桜庭…そして、その友人が俺という配役が多くなった。
俺はいつだってあいつの引き立て役だ。
そんなこと、気にしなければ良いのかもしれない。
だけど、俺と桜庭は同じスタートを切ったんだ。
だからこそ、気になってしまう。
あいつにだけは負けたくないと、俺はずっと思い続けて来た。
なのに、一度も勝てない…
「脇役は演技力がないとやれないからさ。」
そんな風に言って俺を慰めてくれる者がいた。
でも、違う…きっと、主役を演じることの出来ない俺を憐れんでいるんだ…
考えてみれば、芸能界に入って、もう三十年程の歳月が流れていた。
三十年間経っても桜庭に勝てない俺は、この先もずっと、あいつの背中を追い続けることになるのだろう。
そう思ったら、すべてを投げ出したくなった。
どうしても桜庭を追い越せない自分自身が、悔しくて悔しくてたまらなかった。
「中岡さん、お願いします!」
俺のシーンの撮影が始まる。
今回の俺の出演シーンの中で、一番の見せ場だ。
去って行った女への未練を、雪の中で絶叫するシーンだ。
女は俺の元を去り、桜庭演じる祐一の所に行ったんだ。
映画の中でさえ、俺は桜庭に負けるなんて…本当に最悪だ。
(うっ…さむ…)
外は、思ったよりも冷え込んでいた。
「中岡さん、ここまで歩いてきて、ここで膝をついて下さい。」
ADが場所を指定する。
「あぁ、わかった…」
「カット138、よーい、3、2……」
虚ろな目をして、おぼつかない足取りで…俺は、指定された場所まで歩いて行く。
酔っているという設定だ。
小石に蹴躓いた俺は、指定の場所に膝をついて叫ぶ…
「俺は…俺は、まだ愛してる…!」
潤んだ瞳で空を見上げたその時、空から白いものが舞い降りて来た。
雪だ…今年最初の雪…
雪はCGで処理することになっていたのに、本当に雪が降って来たんだ。
舞い落ちる雪を見ていたら、なぜだか今までの長い芸能生活のことが頭に浮かんだ。
俺は、歌うことも演技をすることも本当に大好きだった。
だからこそ、芸能界を目指したんだ。
オーディションに応募しまくって、だけど、何回も落選続きで…
でも、ある時、今の事務所の社長が俺のことを気に入ってくれて…
(そうだ…街でスカウトされた桜庭とは、そもそもスタート地点から違ってたんだ…)
「いやだ…俺は、まだ諦めることなんて出来ない…!」
俺は、ここに来るまで、どれほどの努力を重ねて来たことか…
ジムに行って体を鍛え、演技の勉強と語学をマスターするために海外にも行った。
ボイストレーニングも欠かさない。
俺の人生は、そのすべてをこの世界に捧げてきたと言っても過言ではない。
(そうだ…桜庭には敵わなくても…俺は、やっぱりまだこの世界を去るわけにはいかない…!)
「俺は、一生、諦めない!」
絶叫が白い息になり、熱い涙が頬を伝った。
雪は、さらに激しさを増す。
「カーット!」
その声で、俺は我に返った。
「お疲れ様、実に良かったよ!」
「ありがとうございます。」
その映画で、俺は初の助演男優賞をもらった。
この映画が俺の最後の作品だ…!)
狭い部屋の中で、俺は拳を握り締めた。
今撮影している映画の主役は、桜庭雅也。
俺と同じ年にデビューした、元アイドル歌手だ。
俺達は、年齢も同じで同じ高校の芸能コースに通っていた。
当時からライバル扱いされていたが、悔しいことに、人気は明らかにあいつの方が高かった。
CDの売り上げも、ブロマイドも売り上げも、コンサートの動員数もいつも俺はあいつに敵わなかった。
やがて、俺達も年を取り、自然とドラマや映画の仕事をするようになった。
最初の映画は、俺たち二人が主役だった。
だが、いつしか、主役は桜庭…そして、その友人が俺という配役が多くなった。
俺はいつだってあいつの引き立て役だ。
そんなこと、気にしなければ良いのかもしれない。
だけど、俺と桜庭は同じスタートを切ったんだ。
だからこそ、気になってしまう。
あいつにだけは負けたくないと、俺はずっと思い続けて来た。
なのに、一度も勝てない…
「脇役は演技力がないとやれないからさ。」
そんな風に言って俺を慰めてくれる者がいた。
でも、違う…きっと、主役を演じることの出来ない俺を憐れんでいるんだ…
考えてみれば、芸能界に入って、もう三十年程の歳月が流れていた。
三十年間経っても桜庭に勝てない俺は、この先もずっと、あいつの背中を追い続けることになるのだろう。
そう思ったら、すべてを投げ出したくなった。
どうしても桜庭を追い越せない自分自身が、悔しくて悔しくてたまらなかった。
「中岡さん、お願いします!」
俺のシーンの撮影が始まる。
今回の俺の出演シーンの中で、一番の見せ場だ。
去って行った女への未練を、雪の中で絶叫するシーンだ。
女は俺の元を去り、桜庭演じる祐一の所に行ったんだ。
映画の中でさえ、俺は桜庭に負けるなんて…本当に最悪だ。
(うっ…さむ…)
外は、思ったよりも冷え込んでいた。
「中岡さん、ここまで歩いてきて、ここで膝をついて下さい。」
ADが場所を指定する。
「あぁ、わかった…」
「カット138、よーい、3、2……」
虚ろな目をして、おぼつかない足取りで…俺は、指定された場所まで歩いて行く。
酔っているという設定だ。
小石に蹴躓いた俺は、指定の場所に膝をついて叫ぶ…
「俺は…俺は、まだ愛してる…!」
潤んだ瞳で空を見上げたその時、空から白いものが舞い降りて来た。
雪だ…今年最初の雪…
雪はCGで処理することになっていたのに、本当に雪が降って来たんだ。
舞い落ちる雪を見ていたら、なぜだか今までの長い芸能生活のことが頭に浮かんだ。
俺は、歌うことも演技をすることも本当に大好きだった。
だからこそ、芸能界を目指したんだ。
オーディションに応募しまくって、だけど、何回も落選続きで…
でも、ある時、今の事務所の社長が俺のことを気に入ってくれて…
(そうだ…街でスカウトされた桜庭とは、そもそもスタート地点から違ってたんだ…)
「いやだ…俺は、まだ諦めることなんて出来ない…!」
俺は、ここに来るまで、どれほどの努力を重ねて来たことか…
ジムに行って体を鍛え、演技の勉強と語学をマスターするために海外にも行った。
ボイストレーニングも欠かさない。
俺の人生は、そのすべてをこの世界に捧げてきたと言っても過言ではない。
(そうだ…桜庭には敵わなくても…俺は、やっぱりまだこの世界を去るわけにはいかない…!)
「俺は、一生、諦めない!」
絶叫が白い息になり、熱い涙が頬を伝った。
雪は、さらに激しさを増す。
「カーット!」
その声で、俺は我に返った。
「お疲れ様、実に良かったよ!」
「ありがとうございます。」
その映画で、俺は初の助演男優賞をもらった。
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