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写真
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(もうそんな季節なんだね…)
目の端に映った桃の花に、心がちくりと痛む。
桃の花を見ると思い出す…
彼と二人で写したあの写真を…
あの日もちょうど今日みたいな花曇りの日だった。
桃の花が咲いてるからって、彼は私の手を取って、桃の木をバックにデジカメで写真を写した。
なかなか良い感じに撮れたから、結婚式の時に流してもらおうとか何とか言って…
あれが二人で撮った最後の写真となった。
あれから一か月後、私と彼は結婚することになっていた。
なのに、彼は何も言わず忽然と姿を消した。
問題なんてなにもなかった。
私と彼はうまくいっていて、結婚式も、新居もすでに決まってた。
彼がいなくなる理由なんて、全く思い浮かばない。
だけど、彼はいなくなった。
泣いて泣いて泣いて…
目が潰れてしまうんじゃないかと思う程、泣いて…
一年程経って、ようやく私は気が付いた。
きっと、彼は最初から結婚なんてする気がなかったんだって。
考えてみれば、最初からおかしかったんだ。
彼は、真面目で優しくてその上イケメン…私にはもったいないような人だった。
しかも、声を掛けて来たのは彼の方だ。
私みたいに地味な女に、声を掛けて来るもの好きなんてそうそういない。
彼は、自分は天涯孤独の身だと言ってた。
だから、結婚式には誰も呼ばないって。
もちろん、彼の身内にも会ったことはない。
家もボロアパートだから恥ずかしいからって教えてくれなかった。
今考えれば不自然だ。
きっと、彼は私にいろいろな嘘を吐いてたのだろう。
そんなことが、一年経ってようやくわかり、そこから少しずつ立ち直って…
気付けば五年の時が流れていた。
*
「山根美和さんですか?」
「え?は、はい。」
「小林敦さんのことでちょっとお話が…」
突然のことだった。
私は、連れて行かれた場所で、久しぶりの彼と出会った。
骨だけになった彼と…
つい最近、雑木林の中で発見され、その近くにあったバッグから彼の身元がわかったらしい。
その荷物の中には、あの写真があった。
桃の木の前で、私と彼が微笑むあの写真が…
「心臓付近に刺し傷がありました。
間違いなく他殺です。」
「か、彼は、こ、殺されたんですか?」
「そうです。」
涙が溢れて止まらなくなった。
彼は私を捨てて逃げたわけではなかった。
殺されていたんだ。
「あっちゃん……」
変わり果てた姿の彼の前で私は立ち尽くし、ただただ泣くことしか出来なかった。
目の端に映った桃の花に、心がちくりと痛む。
桃の花を見ると思い出す…
彼と二人で写したあの写真を…
あの日もちょうど今日みたいな花曇りの日だった。
桃の花が咲いてるからって、彼は私の手を取って、桃の木をバックにデジカメで写真を写した。
なかなか良い感じに撮れたから、結婚式の時に流してもらおうとか何とか言って…
あれが二人で撮った最後の写真となった。
あれから一か月後、私と彼は結婚することになっていた。
なのに、彼は何も言わず忽然と姿を消した。
問題なんてなにもなかった。
私と彼はうまくいっていて、結婚式も、新居もすでに決まってた。
彼がいなくなる理由なんて、全く思い浮かばない。
だけど、彼はいなくなった。
泣いて泣いて泣いて…
目が潰れてしまうんじゃないかと思う程、泣いて…
一年程経って、ようやく私は気が付いた。
きっと、彼は最初から結婚なんてする気がなかったんだって。
考えてみれば、最初からおかしかったんだ。
彼は、真面目で優しくてその上イケメン…私にはもったいないような人だった。
しかも、声を掛けて来たのは彼の方だ。
私みたいに地味な女に、声を掛けて来るもの好きなんてそうそういない。
彼は、自分は天涯孤独の身だと言ってた。
だから、結婚式には誰も呼ばないって。
もちろん、彼の身内にも会ったことはない。
家もボロアパートだから恥ずかしいからって教えてくれなかった。
今考えれば不自然だ。
きっと、彼は私にいろいろな嘘を吐いてたのだろう。
そんなことが、一年経ってようやくわかり、そこから少しずつ立ち直って…
気付けば五年の時が流れていた。
*
「山根美和さんですか?」
「え?は、はい。」
「小林敦さんのことでちょっとお話が…」
突然のことだった。
私は、連れて行かれた場所で、久しぶりの彼と出会った。
骨だけになった彼と…
つい最近、雑木林の中で発見され、その近くにあったバッグから彼の身元がわかったらしい。
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「心臓付近に刺し傷がありました。
間違いなく他殺です。」
「か、彼は、こ、殺されたんですか?」
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