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運命の人
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(会えるはずがない。
でも、だからこそ……)
まさに山が燃えているかのようだ。
色を変えただけなのに、なぜこんなにも美しいのだろう?
僕は、赤や黄色の絶景に見とれた。
ここは、紅葉の穴場スポットだ。
この近くの有名な紅葉の名所にひけはとらないものの、道が険しいせいか、見物客が少ない。
だからこそ、さらに会える確率は少ないとも言える。
どうせなら、人が多い方へ行けば良かったのかもしれない。
なのに、僕はこちらへ来てしまった。
(全く…馬鹿だよな…)
目では紅葉を見ながら、心には桜の花を見ていた。
数か月前に見た風景だ。
ふらりと出掛けた桜並木…そこで、僕は彼女と出会った。
いや、ただ見ただけだ。
でも…その時、僕は一瞬にして彼女に心を奪われた。
俗な言い方をするならば、一目惚れというやつだ。
彼女のどこにそれほど惹かれてしまったのかはわからない。
けれど、間違いなく、僕は彼女のことが好きになってしまったんだ。
悲しいことに、僕の恋はそれだけで終わってしまった。
一言の言葉を交わすこともなく、彼女は人混みに紛れてしまい…
僕も彼女を探そうとはしなかった。
その後も彼女はずっと僕の心の中に住み着いていたけれど、彼女と再会出来る可能性なんてないに等しい。
僕は彼女のことはすっかり諦めていた。
なのに、暑い夏の盛り…
何となく出掛けた向日葵の迷路で、彼女に出会ったんだ。
最初は、あまりの暑さに幻を見ているのかと思った。
だけど、そうじゃなかった。
彼女は本当に、あの桜並木で見た彼女だった。
彼女はそこに実在していた。
声をかけなきゃ!
何か言わなきゃ…!
そう思うのに、何も言えなかった。
去って行く彼女の後ろ姿をみつめながら、おのれの不甲斐なさを呪った。
そして、また数か月…
今日、僕は心にある決意を秘めてここに来た。
もしも、今日、彼女に会えたら…
彼女に話しかける、と。
三度目の正直という言葉がある。
三度も偶然会えたなら、それは偶然ではなくきっと必然なんだ。
それは、運命の恋に違いない。
会いたい…もう一度、彼女に会いたい!
だけど、会える可能性はどう考えても低い。
なぜ僕はこんな場所に来てしまったんだろう?
今からでも、人の多い場所に移動するか?
いや、それではフェアとは言えない。
僕は、ここを選んだのだから…
その時、階段を上って来る女性に気が付いた。
僕の心臓は、早鐘を打ち始めた。
彼女だ…会いたかった彼女がすぐ傍にいる…!
緊張で、全身が固くなる。
「あら…あなたは…」
彼女が僕に話しかけた。
「え?」
「桜と向日葵でもお会いしましたよね?」
「え…は、はいっ!」
僕の血潮は、ここの紅葉よりもさらに赤い色に燃えている。
でも、だからこそ……)
まさに山が燃えているかのようだ。
色を変えただけなのに、なぜこんなにも美しいのだろう?
僕は、赤や黄色の絶景に見とれた。
ここは、紅葉の穴場スポットだ。
この近くの有名な紅葉の名所にひけはとらないものの、道が険しいせいか、見物客が少ない。
だからこそ、さらに会える確率は少ないとも言える。
どうせなら、人が多い方へ行けば良かったのかもしれない。
なのに、僕はこちらへ来てしまった。
(全く…馬鹿だよな…)
目では紅葉を見ながら、心には桜の花を見ていた。
数か月前に見た風景だ。
ふらりと出掛けた桜並木…そこで、僕は彼女と出会った。
いや、ただ見ただけだ。
でも…その時、僕は一瞬にして彼女に心を奪われた。
俗な言い方をするならば、一目惚れというやつだ。
彼女のどこにそれほど惹かれてしまったのかはわからない。
けれど、間違いなく、僕は彼女のことが好きになってしまったんだ。
悲しいことに、僕の恋はそれだけで終わってしまった。
一言の言葉を交わすこともなく、彼女は人混みに紛れてしまい…
僕も彼女を探そうとはしなかった。
その後も彼女はずっと僕の心の中に住み着いていたけれど、彼女と再会出来る可能性なんてないに等しい。
僕は彼女のことはすっかり諦めていた。
なのに、暑い夏の盛り…
何となく出掛けた向日葵の迷路で、彼女に出会ったんだ。
最初は、あまりの暑さに幻を見ているのかと思った。
だけど、そうじゃなかった。
彼女は本当に、あの桜並木で見た彼女だった。
彼女はそこに実在していた。
声をかけなきゃ!
何か言わなきゃ…!
そう思うのに、何も言えなかった。
去って行く彼女の後ろ姿をみつめながら、おのれの不甲斐なさを呪った。
そして、また数か月…
今日、僕は心にある決意を秘めてここに来た。
もしも、今日、彼女に会えたら…
彼女に話しかける、と。
三度目の正直という言葉がある。
三度も偶然会えたなら、それは偶然ではなくきっと必然なんだ。
それは、運命の恋に違いない。
会いたい…もう一度、彼女に会いたい!
だけど、会える可能性はどう考えても低い。
なぜ僕はこんな場所に来てしまったんだろう?
今からでも、人の多い場所に移動するか?
いや、それではフェアとは言えない。
僕は、ここを選んだのだから…
その時、階段を上って来る女性に気が付いた。
僕の心臓は、早鐘を打ち始めた。
彼女だ…会いたかった彼女がすぐ傍にいる…!
緊張で、全身が固くなる。
「あら…あなたは…」
彼女が僕に話しかけた。
「え?」
「桜と向日葵でもお会いしましたよね?」
「え…は、はいっ!」
僕の血潮は、ここの紅葉よりもさらに赤い色に燃えている。
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