1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
303 / 401
福の神

しおりを挟む
(さて、そろそろ出かけるか…)



ドアを開けた途端、冷たい北風が俺を震え上がらせる。
 冬だから仕方ないとはいえ、やっぱり寒いのは苦手だ。
だけど、今日は節分。
 恵方巻を買いに行かなくてはならない。
 節分に恵方巻を食べないなんて、考えられないからな。



 背を丸め、スーパーへの道を歩いていると…
道の片隅に佇んでいた小柄な老人が手招きをした。



 「おじいちゃん、どないかしたんか?」

 「すまんが、わしをおぶって家まで連れて行ってくれんか?」

 「えっ?」



えらく唐突なお願いだ。
でも、見たところ、そう重くはなさそうだし、まぁ、いいか…



「わかった。乗り。」

 俺は老人の前にしゃがんだ。
 老人は、素直に俺の背中におぶさった。
 思った通り、子供並みに軽い。



 「ほな、行くで。家はどっちや?」

 「あっち。」

 老人が指さしたのは東の方。
 俺が行きたかったスーパーとは反対側だったが、仕方ない。



 「おじいちゃん、どないしたんや?
 足でも痛なったんか?」

 老人は、それには答えずただ笑った。



 「家には誰かいてはるんか?」

 「いいや、わし一人じゃ。」

 「そうか。なんか困った事があったら、近所の人にすぐ言わなあかんで。」

 老人はまたおかしそうに笑った。
おかしな老人だと思ったが、おかしなことは他にもあった。
 歩いているうちに、どうも背中がどんどん重くなってるような気がするんだ。
でも、そんなはずがない。
そうは思うが、気が付けば、俺の息は上がり、この寒い中、全身が汗にまみれていた。



 「お、おじいちゃん…家はまだ遠いんか?」

 「いいや、もうすぐじゃ。
どうかしたのか?」

 「な、なんでもあれへん。」

 最近、運動不足は感じていたが、こんな小柄な老人をおぶっただけでこんなに疲れるとは…
そんな自分自身が恥ずかしくて、俺は半ば意地になり、歩き続けた。
 歩けば歩く程、背中の老人は重くなる。



ついに俺は、一歩も踏み出せない程になっていた。



 「お、おじいちゃん…わ、悪いんやけど…ちょ、ちょっとだけ降りてくれるか…」

 「……ありがとうよ。」



 (……え?)



その声を聞いた途端、背中の重みが一瞬で消えた。



 「おじい……えっ!?」

 老人は煙のように消えていた。
あたりには、隠れるような場所もないというのに、老人はどこにもいなかった。



 (……どういうことや!?)



 俺は、どうにも薄気味悪い気分で、今来た道を引き返した。



 *



 (えっと…東北東はこっちやな。)



 無事に恵方巻を買って来た俺は、恵方を向いて恵方巻にかぶりついた。



 (今年こそ、可愛くて気立てのええ彼女が出来ますように…)



 『あい、わかった。」



 「えっ!?」



 恵方巻を食べてる間は声を出してはいけないのに、俺は思わず声を上げていた。
あたりを見渡す…
ここは俺の部屋。
 当然、誰かがいるはずもない。
テレビもつけてない。



 (……今日はほんまにおかしな日やな。)



 頭をひねりながら、俺は再び恵方巻にかぶりついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月るるな
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

処理中です...