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いつの日か…
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「……良かった。元気そうで。」
「そう?私、元気そう?」
「うん。最後に会った時よりはずっと。」
「そっか…良かった。」
それは、嘘じゃなかった。
最後に会ったあの頃の小夜さんは、今よりもずいぶん痩せてたし、笑うこともなかった。
今、目の前にいる小夜さんは、最初に会った時に近い。
頬もふっくらしてるし、目の下の隈もない。
表情も明るくなってて、それだけでも安心出来た。
「家…引っ越したんだよね?」
「うん……ごめんね。
あの時は、なんか必死っていうのか…一人になって一からやり直さないと、生きていけないような気分になってたの。」
「そっか……」
この五年…小夜さんは、きっと本当に頑張ったんだろうと思う。
そして、ようやく兄さんの死を乗り越えたんだね。
彼女が髪をかきあげた時、その細い薬指にさした指輪が目についた。
そうだ…小夜さんがうちに来た時に話してた。
誕生日プレゼントに兄さんに買ってもらった指輪で、それは小夜さんの誕生石なんだって…確か…ムーンストーンだ。
「……あ、これ……」
僕がじっと見ていることに、小夜さんは気づいたようだ。
「これは……」
「小夜さんの誕生石だよね?
兄さんが誕生日に贈った…」
「え?どうして知ってるの?」
「小夜さんがうちに来た時、話してくれたんだよ。」
「そうだっけ?」
小夜さんは、照れたように微笑んだ。
「……結婚指輪は真珠にするって…
友君、そう言ってたんだけどね……」
ぽつりと呟いた小夜さんは、ちょっと無理した笑みを浮かべた。
「……小夜さん。
真珠の指輪は、僕が贈っちゃだめかな?」
「え?」
「……あれから五年経ったけど…僕の気持ちは今でも少しも変わってないんだ。」
「玲君……」
僕は、なんて未練がましい男なんだろう。
自分でも呆れてしまう。
小夜さんは、今もあの指輪を身に着けている。
それはまだ兄さんを愛してるってことなのに…
「……私ね。友君が亡くなったことはもう受け入れた。
でもね…まだやっぱり好きなの。」
思った通りだ。
僕の気持ちが変わらないのと同じように、小夜さんの気持ちも変わっていないんだ。
そんなことわかってたのに……
「……それでも良い?」
「えっ!?」
「私の心の中にはまだ友君がいる。指輪だってはずせない。
この先、玲君の気持ちに応えられるかどうかも、私にはまだわからないの。
それでも、私と付き合える?」
僕は、即座に頷いた。
「うん、僕はいつまでだって待つよ。
一番じゃなくて良いんだ。ずっと、兄さんの次で構わない。
兄さんを忘れてほしいなんて思ってないから。」
「玲君…ありがとう。」
「こっちこそ…ありがとう。」
小夜さんに真珠の指輪を贈る日を、僕は夢見た。
「そう?私、元気そう?」
「うん。最後に会った時よりはずっと。」
「そっか…良かった。」
それは、嘘じゃなかった。
最後に会ったあの頃の小夜さんは、今よりもずいぶん痩せてたし、笑うこともなかった。
今、目の前にいる小夜さんは、最初に会った時に近い。
頬もふっくらしてるし、目の下の隈もない。
表情も明るくなってて、それだけでも安心出来た。
「家…引っ越したんだよね?」
「うん……ごめんね。
あの時は、なんか必死っていうのか…一人になって一からやり直さないと、生きていけないような気分になってたの。」
「そっか……」
この五年…小夜さんは、きっと本当に頑張ったんだろうと思う。
そして、ようやく兄さんの死を乗り越えたんだね。
彼女が髪をかきあげた時、その細い薬指にさした指輪が目についた。
そうだ…小夜さんがうちに来た時に話してた。
誕生日プレゼントに兄さんに買ってもらった指輪で、それは小夜さんの誕生石なんだって…確か…ムーンストーンだ。
「……あ、これ……」
僕がじっと見ていることに、小夜さんは気づいたようだ。
「これは……」
「小夜さんの誕生石だよね?
兄さんが誕生日に贈った…」
「え?どうして知ってるの?」
「小夜さんがうちに来た時、話してくれたんだよ。」
「そうだっけ?」
小夜さんは、照れたように微笑んだ。
「……結婚指輪は真珠にするって…
友君、そう言ってたんだけどね……」
ぽつりと呟いた小夜さんは、ちょっと無理した笑みを浮かべた。
「……小夜さん。
真珠の指輪は、僕が贈っちゃだめかな?」
「え?」
「……あれから五年経ったけど…僕の気持ちは今でも少しも変わってないんだ。」
「玲君……」
僕は、なんて未練がましい男なんだろう。
自分でも呆れてしまう。
小夜さんは、今もあの指輪を身に着けている。
それはまだ兄さんを愛してるってことなのに…
「……私ね。友君が亡くなったことはもう受け入れた。
でもね…まだやっぱり好きなの。」
思った通りだ。
僕の気持ちが変わらないのと同じように、小夜さんの気持ちも変わっていないんだ。
そんなことわかってたのに……
「……それでも良い?」
「えっ!?」
「私の心の中にはまだ友君がいる。指輪だってはずせない。
この先、玲君の気持ちに応えられるかどうかも、私にはまだわからないの。
それでも、私と付き合える?」
僕は、即座に頷いた。
「うん、僕はいつまでだって待つよ。
一番じゃなくて良いんだ。ずっと、兄さんの次で構わない。
兄さんを忘れてほしいなんて思ってないから。」
「玲君…ありがとう。」
「こっちこそ…ありがとう。」
小夜さんに真珠の指輪を贈る日を、僕は夢見た。
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