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引越し
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(嘘……)
新しい我が家には、しばらく言葉が出なかった。
私達は、借金を背負わされたのだから、これからはかなり節約をしなくてはならない。
そんなことはわかっていたけれど、引越し先は、想像以上のものだった。
今まで住んでいた家は、新しくはないけれど、それなりの広さがあり、明るくて快適な家だった。
だけど、今度の家と来たら…
二間しかないアパートだ。
古くて日当たりが良くなくて、なんだか湿っぽい。
持ってきた荷物も最低限のものだけだ。
好きで集めていたCDや漫画、お人形等は全て処分した。
これからは、ここで、両親と私と弟の四人で暮らすんだ。
「……なんか、暗いし、狭いね。」
弟の誠二郎が呟く。
「ごめんね。これから働いてお金を返したら、もう少し良い所に移るから、しばらくは我慢してね。」
「……うん、わかった。」
弟も幼いながらに、なにか大変なことが起こったということはわかっているのだろう。
とても素直に聞き分けた。
新居には家具はなく、家電もほとんどない。
テレビさえない。
あるのは冷蔵庫と炊飯器だけだ。
さすがに、それらはないと困ると思ったのだろう。
今まで使っていたものを手放し、2ドアの小さな冷蔵庫を中古で買ったみたいだ。
「ねぇ、お母さん…駅まではどのくらいなの?」
「20分くらいかかるみたいだよ。」
「20分か…たいしたことないよね。」
私は無理して笑った。
お父さんは、何も喋らず、壁に持たれかけていた。
詳しいことはわからないけれど、お父さんが知り合いの人に騙されて、家や工場を取られたばかりか、借金まで背負わされたんだ。
きっと、お父さんはそのことで、私たちに引け目を感じてるだろうし、とにかく傷ついてもいると思う。
私もすごく悔しいよ。
こんなことにならなかったら、私だって進学して、優ちゃんと一緒に大学生になってたはずなんだから。
でも、そんなことはもう無理だ。
だから、気持ちを切り替えた。
とにかく、今は、一生懸命働くしかないんだ。
一生懸命働いて、お金を返せば、いつかはまた良い暮らしだって出来るようになる。
「お母さん、引っ越しの挨拶は行かないの?」
「あぁ…最近は、そういうのを嫌う人もいるらしいから、やらないことにしたんだ。」
「そうなんだ。」
「あ、そろそろ、昼だね。
引っ越しそばを食べようね。
今、準備するから。」
出てきたのは、出汁に浸かったそばだった。
そば以外、何も入ってない。
食べていると、なんだか無性に悲しくなった。
ふと見ると、お母さんもそばをすすりながら泣いていた。
本当に頑張ろう。
そして、一刻も早くこの家からまた引っ越そう。
涙を拭いながら、私は心の中でそう誓った。
新しい我が家には、しばらく言葉が出なかった。
私達は、借金を背負わされたのだから、これからはかなり節約をしなくてはならない。
そんなことはわかっていたけれど、引越し先は、想像以上のものだった。
今まで住んでいた家は、新しくはないけれど、それなりの広さがあり、明るくて快適な家だった。
だけど、今度の家と来たら…
二間しかないアパートだ。
古くて日当たりが良くなくて、なんだか湿っぽい。
持ってきた荷物も最低限のものだけだ。
好きで集めていたCDや漫画、お人形等は全て処分した。
これからは、ここで、両親と私と弟の四人で暮らすんだ。
「……なんか、暗いし、狭いね。」
弟の誠二郎が呟く。
「ごめんね。これから働いてお金を返したら、もう少し良い所に移るから、しばらくは我慢してね。」
「……うん、わかった。」
弟も幼いながらに、なにか大変なことが起こったということはわかっているのだろう。
とても素直に聞き分けた。
新居には家具はなく、家電もほとんどない。
テレビさえない。
あるのは冷蔵庫と炊飯器だけだ。
さすがに、それらはないと困ると思ったのだろう。
今まで使っていたものを手放し、2ドアの小さな冷蔵庫を中古で買ったみたいだ。
「ねぇ、お母さん…駅まではどのくらいなの?」
「20分くらいかかるみたいだよ。」
「20分か…たいしたことないよね。」
私は無理して笑った。
お父さんは、何も喋らず、壁に持たれかけていた。
詳しいことはわからないけれど、お父さんが知り合いの人に騙されて、家や工場を取られたばかりか、借金まで背負わされたんだ。
きっと、お父さんはそのことで、私たちに引け目を感じてるだろうし、とにかく傷ついてもいると思う。
私もすごく悔しいよ。
こんなことにならなかったら、私だって進学して、優ちゃんと一緒に大学生になってたはずなんだから。
でも、そんなことはもう無理だ。
だから、気持ちを切り替えた。
とにかく、今は、一生懸命働くしかないんだ。
一生懸命働いて、お金を返せば、いつかはまた良い暮らしだって出来るようになる。
「お母さん、引っ越しの挨拶は行かないの?」
「あぁ…最近は、そういうのを嫌う人もいるらしいから、やらないことにしたんだ。」
「そうなんだ。」
「あ、そろそろ、昼だね。
引っ越しそばを食べようね。
今、準備するから。」
出てきたのは、出汁に浸かったそばだった。
そば以外、何も入ってない。
食べていると、なんだか無性に悲しくなった。
ふと見ると、お母さんもそばをすすりながら泣いていた。
本当に頑張ろう。
そして、一刻も早くこの家からまた引っ越そう。
涙を拭いながら、私は心の中でそう誓った。
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