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014:懐かしの家路

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その町はセスの言った通り、どこにでもありそうな小さな町だった。
セスの後を着いて歩くフォルテュナに、すれ違う人々は興味深か気な視線を投げ掛けた。
だが、それは決して冷ややかなものではなかった。
ただ、自分のものとは違うフォルテュナの耳を不思議がっているだけの、子供のような無邪気な視線…
その視線にどう反応すれば良いのかと戸惑うフォルテュナの耳に、セスの笑い声が届いた。



「フォルテュナ、皆が見てるぞ。」

「そ、そうだね…早く君の家に行こうよ。」

「俺の家はこの町じゃないぜ。
もう少し先の町だ。」

「そうなの?」

「フォルテュナ、あの店に入ろう。
安くてボリュームのある飯を食わせてくれるんだ。」

セスは、よほど腹が減っていたのか目当ての店を目指して足早に歩く。
フォルテュナも、セスの歩調に合わせて足を速めた。

さほど広くない店の中は、酒の臭いと肉を焼いたような臭いが漂っていた。



「おやまぁ、セスじゃないか!」

「セス!」

彼に気付いた店の者達が大きな声を上げ、彼の傍に駆け寄り親しげに肩背中を叩く。



「やぁ…久しぶり。
帰りが少し早過ぎたかな!?」

彼の言葉に、中年の男女がからからと大きな口を開けて笑った。



「いやいや、思ったより遅い方だ。
けっこう奥まで進んだってことだな?」

「ともかく無事に帰って来て良かったよ。
もう二度とあんな所へ行こうなんて、考えるんじゃないよ!」

「それで、セス、洞窟はどんな所だったんだ?」

「あんた!そんな話…」

「そんなことより、聞いて驚くなよ!
この人は、洞窟の向こう側から来たんだぜ!」

そう言いながら、セスはフォルテュナの肩に手を置いた。
中年の女性は短い声をあげて口許を押さえ、店にいた数人の客達も一斉にセスとフォルテュナに視線を移した。



「ほ、本当なのかい?」

中年男性は、まじまじとフォルテュナをみつめる。
フォルテュナは、戸惑いがちに頷いた。



「マスター、話はゆっくりするから、その前になにか食べさせてくれよ。
俺達、はらぺこなんだ。」

「あ…あぁ、わかった!
すぐに用意するからな!」

中年の男女は厨房に入り、フォルテュナとセスは客達のみつめる中、店のテーブルに着いた。

 
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