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タクシーの中でも、涙が止まらなかった。
 恥ずかしいけど、仕方がない。
 幸い、運転手さんは何も言わなかった。



 実家に着いた時、私の顔は酷い状態になっていた。
 鏡を見なくても、重くて開けにくくなった目蓋や詰まった鼻、突っぱる頬を考えたら、だいたいの想像は付く。
でも、今更どうにもならない。
それがわかってるから、メイク直しをする気にもなれなかった。



 「芹香じゃないの!
こんな時間にどうしたの?それに、その顔……」



 案の定、お母さんはびっくりしてた。
そりゃそうだ。
 連絡もしなかったし、いきなりこんな酷い顔で来ちゃったんだもん。



 「えへへ…」



こんな時はもう笑うしかない。
とてもうまくは笑えないけど。



 「とにかく入りなさい。」



 良かった。
まさか、門前払いなんてことはされないだろうとは思ってたけど、家の中に入れてもらえただけで、なんか、ほっとした。



 数ヶ月ぶりの実家は、以前と何も変わらなかった。
いつも通りに散らかってて…



「芹香!どうした!?」

 居間にいたお父さんが、私を見て、お母さんと同じ表情を見せた。
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