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「あなたも全然気付いてなかったんですか?」

 「いいえ、それは八重樫さんの思い込みです。
 柊司さんは、この間もはっきりとおっしゃったんです。
 由紀子さんのことが忘れられないって。」

 「だから…それこそがシュウの思い込みですよ。」

 「そんなことはありません!!」



もしも、八重樫さんの言うことが本当だったら、それはとても嬉しいけれど、そんなことはあり得ない。
 私には、柊司さんを惹きつけるような魅力はない。
 若い男女が一つ屋根の下にいるっていうのに、この一年間、柊司さんは何もして来なかった。
それは、私を女性として見てないからだ。
そんなことくらいは、私にもわかる。



 「実は、最近、由紀子の情報がみつかったんです。
 彼女は、いまだ独身でした。
このままだったら、シュウはきっと由紀子と連絡を取るでしょう。
そして、シュウが告白して、それに由紀子が応えたら…
あなたはそれでも良いんですか?」

 「良いんです。
むしろ、うまくいくことを祈っています。」

 「なぜ?」

 「だって……柊司さんは由紀子さんが好きなんですもん。
 柊司さんには、し…幸せになってほしいから…
し、失礼します。」

 私は部屋を飛び出した。
もうこれ以上、由紀子さんの名前を聞きたくなかったし、近い将来に訪れるであろう辛い未来のことを考えたくなかったから。

 
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