132 / 697
021. 奇跡
4
しおりを挟む
門から少しばかり離れると、少しずつ民家や畑が目に付くようになった。
「あそこにあるちょっと大きめの建物は、役所や病院、その他いろんな公共のものが交じり合った施設なんだ。
とりあえず、ここに初めて来た者はあそこの役所に行くんだ。」
「ここには総理大臣とか王様みたいな人はいるのん?」
「そういうのはいないけど、ここにいる年数が一番長い者が長老と呼ばれてる。
まぁ、リーダーみたいなもんだな。
今の長老はイルドクさんだ。」
羊はジェリコからこのドアーズのことをいろいろと教わりながら役所を目指した。
「着いたぞ。あそこで住人登録をするんだ。」
「あれ?役所の隣のあれって…」
羊は、四角い石の並ぶ場所を指差した。
「あぁ、あれなら墓場だ。」
「やっぱり…でも、なんで二つにわかれてるのん?」
「こっちは病気や事故、めったにないが喧嘩などによって死んだ者達の墓…そしてこっちは、このドアーズに来たことを受け入れられなくて自ら命を断った者達の墓だ…」
隣り合った二ヶ所の墓場にはほぼ同数の墓石が建てられていた。
「そんな…」
「だからさっきも言っただろ。
運命を受け入れて、早めに諦める事だ。
あんたはもう二度と元の世界には戻れない…
家族や友人にも二度と会えない。
そのことを早く受け入れるんだ!
そうでなきゃ…あんたもあっちに入ることになっちまうぜ。」
羊の脳裏に浮かぶのは、ついさっきまで一緒だった世夜、そして家族や亀の顔…
(もう誰とも二度と会えないのねん…)
羊の大きな瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた…
(皆、さよならなのねん…)
羊は役所で住人登録を済ませた。
といっても、ここに機械はない。
ただ、台帳に個人データやここへ来た日を記してもらうだけだ。
「よし、これであんたもドアーズの住人だ。
さ、皆に頼んで家を建ててもらうように手配するよ。
出来るまでは俺ん家にいれば良い。」
「ありがとうなのねん。」
町には、現在、数百人の人々が暮らしているらしい。
食べるものはすべて自給自足だ。
ここには、元々、魚や食べられる木の実等があったそうだ。
そして、外からの住人が増えるに連れ、それらは改良されたり加工されるようになり、今ではけっこうな種類の食料があるとのこと。
ドアーズは、皆が協力して生きている世界なのだ。
羊は、特別な技術を持っていなかったため、ごく一般的な作業員になった。
農作物の手入れや、魚や貝の捕獲、さらには木の伐採等、いろんなことを学んだ。
気が付くと、羊がドアーズに来て二年の月日が流れていた。
羊はここでの暮らしにもすっかり慣れ、新しい友達も出来た。
この二年の間に外の世界からここに来た者はおらず、亡くなった者もなく、一人の赤ん坊が生まれていた。
「あそこにあるちょっと大きめの建物は、役所や病院、その他いろんな公共のものが交じり合った施設なんだ。
とりあえず、ここに初めて来た者はあそこの役所に行くんだ。」
「ここには総理大臣とか王様みたいな人はいるのん?」
「そういうのはいないけど、ここにいる年数が一番長い者が長老と呼ばれてる。
まぁ、リーダーみたいなもんだな。
今の長老はイルドクさんだ。」
羊はジェリコからこのドアーズのことをいろいろと教わりながら役所を目指した。
「着いたぞ。あそこで住人登録をするんだ。」
「あれ?役所の隣のあれって…」
羊は、四角い石の並ぶ場所を指差した。
「あぁ、あれなら墓場だ。」
「やっぱり…でも、なんで二つにわかれてるのん?」
「こっちは病気や事故、めったにないが喧嘩などによって死んだ者達の墓…そしてこっちは、このドアーズに来たことを受け入れられなくて自ら命を断った者達の墓だ…」
隣り合った二ヶ所の墓場にはほぼ同数の墓石が建てられていた。
「そんな…」
「だからさっきも言っただろ。
運命を受け入れて、早めに諦める事だ。
あんたはもう二度と元の世界には戻れない…
家族や友人にも二度と会えない。
そのことを早く受け入れるんだ!
そうでなきゃ…あんたもあっちに入ることになっちまうぜ。」
羊の脳裏に浮かぶのは、ついさっきまで一緒だった世夜、そして家族や亀の顔…
(もう誰とも二度と会えないのねん…)
羊の大きな瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた…
(皆、さよならなのねん…)
羊は役所で住人登録を済ませた。
といっても、ここに機械はない。
ただ、台帳に個人データやここへ来た日を記してもらうだけだ。
「よし、これであんたもドアーズの住人だ。
さ、皆に頼んで家を建ててもらうように手配するよ。
出来るまでは俺ん家にいれば良い。」
「ありがとうなのねん。」
町には、現在、数百人の人々が暮らしているらしい。
食べるものはすべて自給自足だ。
ここには、元々、魚や食べられる木の実等があったそうだ。
そして、外からの住人が増えるに連れ、それらは改良されたり加工されるようになり、今ではけっこうな種類の食料があるとのこと。
ドアーズは、皆が協力して生きている世界なのだ。
羊は、特別な技術を持っていなかったため、ごく一般的な作業員になった。
農作物の手入れや、魚や貝の捕獲、さらには木の伐採等、いろんなことを学んだ。
気が付くと、羊がドアーズに来て二年の月日が流れていた。
羊はここでの暮らしにもすっかり慣れ、新しい友達も出来た。
この二年の間に外の世界からここに来た者はおらず、亡くなった者もなく、一人の赤ん坊が生まれていた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ガチャから始まる錬金ライフ
あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。
手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。
他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。
どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。
自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる