Gift

035. 廃坑の秘密

２

「今日もたくさん売れたな！」

「そうやな。
こんな小さい町やから、わてもこんなに売れるとは思うてなかったわ。」

夕方になり、仕入れて来た商品はほとんど売りきれ、僕達は上機嫌で宿に戻る準備をしていた。
すると、一人の子供が走って来て、なんだか残念そうな顔をしてちょっと離れた所から僕達をみつめていた。



「なんだ？坊主。
何か用か？」

ケンタロウが声をかけると、子供は驚いたような顔をして走って逃げ出した。



「なんで逃げるんだよ！」

子供はすぐに追い付かれた。
ケンタロウは、片手でひょいと子供を抱き抱え、その子を僕達の所に連れて来た。



「逃げることないだろ？
何か用があったんじゃないのか？」

ケンタロウのことが余程怖かったのか、子供は涙がいっぱい溜まった瞳で、必死になって唇を噛み締めていた。



「ぼく…どないしたんや？
このお兄ちゃんは口が荒いからびっくりしたんやろ？
心配せんでも大丈夫やで。」

子供の身長に合わせて身をかがめ、優しく声をかけたロッシーを子供はじっとみつめてた。
そして、突然、ロッシーの頭に手を伸ばしたんだ。



「……ふかふかで気持ち良いね…」

少年の強張った顔が不意に緩んだ。



「せやねん。
冬はぬくうてええねんけど、夏は暑うてたまらんのや。」

「ふ～ん…獣人ってけっこう大変なんだね。」

「まぁ、大変ゆーたら大変やけど、わてらは元々がこうやから、慣れてるゆーたら慣れてるんやで。」

「そうなんだぁ…」

ロッシーは本当に人の心を掴むのがうまい。
あの愛くるしい見た目のおかげもあると思うけど、その上、なんとなくやわらかい感じのする商人の言葉で話されると、皆、自然とロッシーに引き付けられてしまうみたいだ。



「それで、ボクは何か用事があったんかな？」

「あ……」

そう言った途端、少年の顔は用事を思い出したのか急に暗い表情に変わり、その瞳にはうっすらと涙が溜まり始めた。