Gift

066. 人形

９

フェルナンに本を投げつけられ、アンヌは居たたまれない気持ちでその場を立ち去った…

アンヌの目には、勝ち誇ったような微笑を浮かべた女の顔が焼きついていた。



その日から、フェルナンは平気で女性を屋敷に連れこむようになった。

今まで我慢を重ねてきたが、こうなってしまってはもう我慢の限界だ。
アンヌはフェルナンと別れる決心をした。

「別れたいだって？
一体、何が不足なんだ？
おまえには何不自由ない生活をさせているじゃないか。」

「夫が毎晩のように女を連れこむなんて普通じゃないわ！」

「なんだ、おまえ、そんなことで妬いてるのか？」

「そうじゃないわ。
あなたはすっかり変わってしまった…
知り合った当時のあなたとは別人みたいだわ…」

「あの頃の僕はどうかしてたんだ。
見知らぬ異国に来て、知り合いもなく仕事もまだ軌道には乗っていなかった。
そんな時、おまえと知り合ったから…」

「…！！…そうだったの…
ただ、それだけのことだったのね…」

「でも、おまえには感謝しているよ。
おまえと結婚してから、急に運が向いてきた。
それに、おまえといると僕は誠実な男に見られるんだ。
女を容姿ではなく中身で決める男だと思われて、株が上がるんだよ。」

そう言って、フェルナンはおかしそうに笑った。

そんなフェルナンに、アンヌはもう一欠片の愛情さえ持つことは出来ない…
しかし、フェルナンはアンヌと別れるつもりはないとはっきりと言いきった。
そんなことをすれば仕事の上での信用をなくすと考えているからだ。

考えてみればアンヌもそういう点では似たようなものだった。
一度は別れる決意をしたというのに、人前ではフェルナンと仲睦まじい夫婦を演じ続けた…
そうでなければ、またあの友達に馬鹿にされる…それ、見た事か…と、思われる。
それだけはいやだった。

しかし、偽りの仮面はアンヌには重過ぎた…