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ルカ(聖夜月ルカ)

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070. 光りさす庭

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目の前に広がる光景に、タイラーは絶句した。
そこは、地中深くに留まる事を嫌がった樹木の根が、絡み合う蛇のように地上をのたくう広大な樹の海…

装備は万全だ。
そのために、背中の荷物はずしりと重い。

進めば進むほど、木々の深さは増していく。
太陽の光さえ、その枝葉に覆い尽くされて届かない。
薄暗い樹海を漂い始めて何日かが経った頃、方位磁石がぐるぐると回っていることにタイラーは気が付いた。



(畜生!どうなってやがるんだ!)

タイラーは気のふれた方位磁石を地面に叩きつけた。







もうあれから何日経ったかわからない…
戻りたくとも、帰る道はとっくにわからなくなっていた。
幸い、食料はまだ当分あるし、涌き水があるため飲み水にも事欠かなかった。
問題は、精神面だ。

タイラーは、体力では他人にひけを取らなかった。
その好奇心故に、今まで幾度となく危険なことをやって来た。
それだけに、多少のことにはくじけないという自信があった。
他人が大袈裟にいうことも自分には楽にこなせる…
常にそう考えていたため、よもやこんなに苦労するとは夢にも思っていなかった。



ある日、タイラーは、樹海の中に洞窟をみつけた。
ここがまた危険な場所だったら…そう考えれば入らない方が賢明と思われる。
しかし、すでに帰り道がわからない今、どこに進もうが状況はあまり変わらないようにも思える。
それに、宝探しや何か不思議な話には洞窟は付き物だ。

「願いの番人」なる者はきっとここにいる…
タイラーの本能のようなものがそう告げた。
タイラーは、大きく息を吸いこむと、そのまま暗い洞窟に入って行った。



おそらく数日が経ったと思われる頃、洞窟に足を踏み入れたことをタイラーは後悔した。
洞窟の内部も、樹海と同じような迷路のようになっていた。
洞窟の中は暗くじめついており、言い様のない圧迫感がある。
これならまだ樹海で迷子になっている方がマシなように思えた。



さらにそれから何日かが過ぎた頃、タイラーは遠くに揺れる灯かりをみつけた。
こんな所に誰が?
不安よりも人恋しさが勝り、タイラーは灯かりに向かって足を進めた。
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