506 / 697
071. 雨に濡れても
5
しおりを挟む
「フィーネ!!」
ライザと隣人のポーラは、道の真ん中に倒れているフィーネをみつけ、診療所に運び込んだ。
*
「先生!フィーネは…フィーネはどうなんです?!」
「外傷もありませんし、身体のどこかが悪いということもありません。
ただ…」
「どうしたんです?
何かあったんですか?」
「実は…」
言いにくそうに医師がフィーネの容態を話し始めた。
フィーネは、記憶の一切を…言葉さえも忘れてしまい、脳の状態はまるで今生まれたばかりの赤子のような状態で、そうなった原因が皆目わからないのだと。
「そ…そんな…!」
「見ての通り、頭にもその他のどこにも外傷はありません。
それなのに娘さんは、一切の記憶を失っているのです。」
医師はそれが腑に落ちないといった顔付きで、首をひねった。
「言葉は教えていけば覚えられると思うのですが、お気の毒ですが、おそらく…失った記憶は戻ることはないでしょう。」
「……そうですか…」
ライザは、立ちあがりフィーネの傍に行くと、その髪をそっと撫でた。
フィーネはそれが気持ち良かったのか、ライザに向かってにっこりと微笑んだ。
「フィーネ…!」
ライザは、フィーネの手をしっかりと握り締めると、再び、医師の方に向き直った。
「先生、気の毒なことなんて何もありませんわ。
また、この子にいろいろなことをたくさん教えてあげられるんですもの…
これからまたたくさんの記憶と思い出を作ってやれるんですもの!
こんな幸せな母親が他にいるかしら…?」
そう言って微笑むライザの瞳から、大きな涙の粒がこぼれて落ちた。
「フィーネ…
あなたの名前は、フィーネよ。
そして、私がママ。
おうちに帰りましょうね!」
ライザは、自分とほとんど背丈の変わらないフィーネを背負った。
「フィーネはとても大きな赤ちゃんね。
育て甲斐があるわ。」
ライザは、家に向かって歩き出した。
温かな背中の温もりに、重さも足の痛みも忘れて…
ライザと隣人のポーラは、道の真ん中に倒れているフィーネをみつけ、診療所に運び込んだ。
*
「先生!フィーネは…フィーネはどうなんです?!」
「外傷もありませんし、身体のどこかが悪いということもありません。
ただ…」
「どうしたんです?
何かあったんですか?」
「実は…」
言いにくそうに医師がフィーネの容態を話し始めた。
フィーネは、記憶の一切を…言葉さえも忘れてしまい、脳の状態はまるで今生まれたばかりの赤子のような状態で、そうなった原因が皆目わからないのだと。
「そ…そんな…!」
「見ての通り、頭にもその他のどこにも外傷はありません。
それなのに娘さんは、一切の記憶を失っているのです。」
医師はそれが腑に落ちないといった顔付きで、首をひねった。
「言葉は教えていけば覚えられると思うのですが、お気の毒ですが、おそらく…失った記憶は戻ることはないでしょう。」
「……そうですか…」
ライザは、立ちあがりフィーネの傍に行くと、その髪をそっと撫でた。
フィーネはそれが気持ち良かったのか、ライザに向かってにっこりと微笑んだ。
「フィーネ…!」
ライザは、フィーネの手をしっかりと握り締めると、再び、医師の方に向き直った。
「先生、気の毒なことなんて何もありませんわ。
また、この子にいろいろなことをたくさん教えてあげられるんですもの…
これからまたたくさんの記憶と思い出を作ってやれるんですもの!
こんな幸せな母親が他にいるかしら…?」
そう言って微笑むライザの瞳から、大きな涙の粒がこぼれて落ちた。
「フィーネ…
あなたの名前は、フィーネよ。
そして、私がママ。
おうちに帰りましょうね!」
ライザは、自分とほとんど背丈の変わらないフィーネを背負った。
「フィーネはとても大きな赤ちゃんね。
育て甲斐があるわ。」
ライザは、家に向かって歩き出した。
温かな背中の温もりに、重さも足の痛みも忘れて…
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
初めまして婚約者様
まる
恋愛
「まあ!貴方が私の婚約者でしたのね!」
緊迫する場での明るいのんびりとした声。
その言葉を聞いてある一点に非難の視線が集中する。
○○○○○○○○○○
※物語の背景はふんわりしています。スルッと読んでいただければ幸いです。
目を止めて読んで下さった方、お気に入り、しおりの登録ありがとう御座いました!少しでも楽しんで読んでいただけたなら幸いです(^人^)
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる