534 / 697
076. 野望
1
しおりを挟む
優しい陽の光…ゆっくりと流れ行く白い雲…
心地良い風が頬をなでながら、それと同時に甘い花の香りを運んで来る…
ただ、傍らで気持ち良さげに眠っている翠の寝息がほんの少し耳障りなだけ…
(……こういうのが、幸せって奴なのかもしれないな…)
耳障りなはずの翠の寝息でさえも、いつの間にか楊俊の耳には子守唄のように届いていた。
「楊俊さま~~~!」
そんな気持ちの良い空間に水を差すように、突然の皺がれた大声が響いた。
不快感を眉間の皺に置き換えて、ゆっくりと声の方に目をやれば、見知った老人が大きな荷物を持って走って来るのが楊俊の目に映る。
「……李雲…何の用だ?騒々しいな…」
「楊俊様!見て下さい!」
山茶花村の村長・李雲は楊俊の不機嫌な顔にも全く動じず、手に持った袋から何やらごそごそと取り出した。
「これが楊俊様の…で、こっちが私の…」
満面に笑みを浮かべる李雲が取り出したものは、色鮮やかなアロハシャツと海パンだった。
「楊俊様、ご存知ですか?
これはアローハシャツというもので、南国で流行っているものらしいですぞ。
ナウでヤングな洋品店で買い求めて参りました。」
李雲はアロハシャツを広げ、誇らしげに語った。
「……そのくらい知っている…
ところで、このきわどいブーメランパンツを私にはけというのか?」
「それは!」
李雲は、極めて生地の少ないレインボーカラーの海パンをひったくると、もう一枚のノーマルな海パンを楊俊の前に差し出した。
「こっちは、私めのものでございます。
楊俊様のはこちらです。」
楊俊の軽蔑の眼にも気付かずに、李雲ははにかんだような笑みを浮かべた。
「……それで……一体、何なんだ?
海水浴にでも行こうと言うのか?」
「もう~~っっ!
楊俊様ったら、本当にお人が悪い…!
……わかってるくせに…」
「何のことだ?」
冷静に答える楊俊に、李雲は口許に手を添え、小声で囁いた。
「少し気が早いですが…女人島へ行く時のためのものですよ。」
囁いた李雲の顔には、とろけそうな笑顔が浮かんでいた。
心地良い風が頬をなでながら、それと同時に甘い花の香りを運んで来る…
ただ、傍らで気持ち良さげに眠っている翠の寝息がほんの少し耳障りなだけ…
(……こういうのが、幸せって奴なのかもしれないな…)
耳障りなはずの翠の寝息でさえも、いつの間にか楊俊の耳には子守唄のように届いていた。
「楊俊さま~~~!」
そんな気持ちの良い空間に水を差すように、突然の皺がれた大声が響いた。
不快感を眉間の皺に置き換えて、ゆっくりと声の方に目をやれば、見知った老人が大きな荷物を持って走って来るのが楊俊の目に映る。
「……李雲…何の用だ?騒々しいな…」
「楊俊様!見て下さい!」
山茶花村の村長・李雲は楊俊の不機嫌な顔にも全く動じず、手に持った袋から何やらごそごそと取り出した。
「これが楊俊様の…で、こっちが私の…」
満面に笑みを浮かべる李雲が取り出したものは、色鮮やかなアロハシャツと海パンだった。
「楊俊様、ご存知ですか?
これはアローハシャツというもので、南国で流行っているものらしいですぞ。
ナウでヤングな洋品店で買い求めて参りました。」
李雲はアロハシャツを広げ、誇らしげに語った。
「……そのくらい知っている…
ところで、このきわどいブーメランパンツを私にはけというのか?」
「それは!」
李雲は、極めて生地の少ないレインボーカラーの海パンをひったくると、もう一枚のノーマルな海パンを楊俊の前に差し出した。
「こっちは、私めのものでございます。
楊俊様のはこちらです。」
楊俊の軽蔑の眼にも気付かずに、李雲ははにかんだような笑みを浮かべた。
「……それで……一体、何なんだ?
海水浴にでも行こうと言うのか?」
「もう~~っっ!
楊俊様ったら、本当にお人が悪い…!
……わかってるくせに…」
「何のことだ?」
冷静に答える楊俊に、李雲は口許に手を添え、小声で囁いた。
「少し気が早いですが…女人島へ行く時のためのものですよ。」
囁いた李雲の顔には、とろけそうな笑顔が浮かんでいた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる