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080. 優しい悪魔
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次の日から、私はロッシュへの嫌がらせを開始した。
石につまずかせて酒瓶を割ってやったり、小家の屋根に穴を開けたり、畑の作物を枯らしてやった。
そんな些細なことも、ギリギリの生活をしている奴にとっては、大変な問題のはずだ。
なのに、奴は私に会いに来ることはなかった。
私はいやがらせを続けた。
奴が困ることを、毎日のように仕掛けてやった。
だが、奴は、それでも私を頼ろうとはしない。
(なんて、しぶとい奴だ!)
気が付けば、すでに一年近くの時が流れていた。
これほど手こずらせられたことはない。
だが、ここまで来たら、私も意地だ。
いつまでだって待ってやる。
人間とは違い、私には無限の時間があるのだから。
それから、ひと月程が経った頃、風の噂でロッシュが倒れたことを知った。
(当然のことだ…きっと、今度は私に泣きつくだろう…)
私は、奴の家を訪ねた。
とても家とは呼べない、酷い所だった。
薄暗い部屋の片隅の寝台に横たわっているのは、骨と皮だけになり、死人のような白い顔をした、以前とはまるで別人のロッシュだった。
「ロッシュ!い、一体、どうしたというのだ!?」
「あなたは……?」
ロッシュは、目もしっかりと見えていないようだった。
奴は力なく片手を突き出す。
「私だ…以前、魂の契約を持ちかけた悪魔だ。」
「あぁ……」
ロッシュは、手を降ろした。
「ロッシュ、すぐに私と契約するのだ!
そうすればおまえは助かる!
これから先、何の苦労もせずに、面白おかしく暮らしていける!」
ロッシュは、わずかに首を振った。
「僕は、悪魔とは…契約しない…」
「なぜだ!なぜ、そこまで私を拒む?
おまえだって金は欲しいだろう?
楽しい想いをしたいだろう?」
ロッシュの顔に小さな笑みが浮かんだ。
「悪魔さん…僕は名誉もお金もいらない。
今、欲しいのは冷たい水だけだ…」
「水…?し、しかし、私には…」
そう、悪魔は、人間に食べ物を与えることは出来ないのだ。
「ロッシュ、私と契約しろ!
そうすれば、お前は医者にかかって元気になれる!」
「水を…下…さい…」
「わ、私には…それは…」
「どうか……水……を……」
それが、奴の最期の言葉だった。
力を失った首ががくりとうなだれた。
「ロッシュ…?ロッシュ…!」
奴の美しく清らかな魂は、早々に天使が持ち去った…
私はとうとう奴の魂を手に入れることは出来なかったのだ。
(……さようなら、ロッシュ…
あの世でたっぷり水を飲めよ…)
あいつに仕掛けた嫌がらせの数々が脳裏をかすめた。
意地を張り過ぎた…
私には似合わない『後悔』の感情が、私の心に重くのしかかった。
石につまずかせて酒瓶を割ってやったり、小家の屋根に穴を開けたり、畑の作物を枯らしてやった。
そんな些細なことも、ギリギリの生活をしている奴にとっては、大変な問題のはずだ。
なのに、奴は私に会いに来ることはなかった。
私はいやがらせを続けた。
奴が困ることを、毎日のように仕掛けてやった。
だが、奴は、それでも私を頼ろうとはしない。
(なんて、しぶとい奴だ!)
気が付けば、すでに一年近くの時が流れていた。
これほど手こずらせられたことはない。
だが、ここまで来たら、私も意地だ。
いつまでだって待ってやる。
人間とは違い、私には無限の時間があるのだから。
それから、ひと月程が経った頃、風の噂でロッシュが倒れたことを知った。
(当然のことだ…きっと、今度は私に泣きつくだろう…)
私は、奴の家を訪ねた。
とても家とは呼べない、酷い所だった。
薄暗い部屋の片隅の寝台に横たわっているのは、骨と皮だけになり、死人のような白い顔をした、以前とはまるで別人のロッシュだった。
「ロッシュ!い、一体、どうしたというのだ!?」
「あなたは……?」
ロッシュは、目もしっかりと見えていないようだった。
奴は力なく片手を突き出す。
「私だ…以前、魂の契約を持ちかけた悪魔だ。」
「あぁ……」
ロッシュは、手を降ろした。
「ロッシュ、すぐに私と契約するのだ!
そうすればおまえは助かる!
これから先、何の苦労もせずに、面白おかしく暮らしていける!」
ロッシュは、わずかに首を振った。
「僕は、悪魔とは…契約しない…」
「なぜだ!なぜ、そこまで私を拒む?
おまえだって金は欲しいだろう?
楽しい想いをしたいだろう?」
ロッシュの顔に小さな笑みが浮かんだ。
「悪魔さん…僕は名誉もお金もいらない。
今、欲しいのは冷たい水だけだ…」
「水…?し、しかし、私には…」
そう、悪魔は、人間に食べ物を与えることは出来ないのだ。
「ロッシュ、私と契約しろ!
そうすれば、お前は医者にかかって元気になれる!」
「水を…下…さい…」
「わ、私には…それは…」
「どうか……水……を……」
それが、奴の最期の言葉だった。
力を失った首ががくりとうなだれた。
「ロッシュ…?ロッシュ…!」
奴の美しく清らかな魂は、早々に天使が持ち去った…
私はとうとう奴の魂を手に入れることは出来なかったのだ。
(……さようなら、ロッシュ…
あの世でたっぷり水を飲めよ…)
あいつに仕掛けた嫌がらせの数々が脳裏をかすめた。
意地を張り過ぎた…
私には似合わない『後悔』の感情が、私の心に重くのしかかった。
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