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ルカ(聖夜月ルカ)

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087. あきんど

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きっとフェリーシアの推測は当たってると思った。
老人もそう言ってたし、僕も暑い所は昔から苦手だったから。
きっと、トカゲ族は本来寒い地域に暮らしてたんじゃないかと…ふと、そんな気がした。
こんなことなら、あの老人に会った時に、トカゲ族の国についてもっとしっかりと聞いておけば良かった。
今更、そんなことを言っても遅いのだけど……



「じゃ、このまま街道沿いに北へ向かうと……」

ケンタロウが話しかけた時、街道の向こう側から人間の男がすごい勢いで走って来るのが見えた。
その後ろには小さめの獣人…



「おーーーい!
そいつを捕まえてくれーーーー!!」

小さな獣人は、その体つきからは考えられないほどの大きな声でそう叫んだ。
走って来た男は、目の前にいた僕達にぎょっとしたような顔を浮かべると、街道を逸れ草原の方へ駆け出した。



「逃がすか!」

ケンタロウはこの状況を楽しむようにそう一言言い残すと、男の後を追いかけ始めた。
僕もとりあえず走ったけど、ケンタロウの足の速さにはとてもじゃないけど追いつけない。
ケンタロウは風のように走り、男とケンタロウの距離はみるみるうちに縮まっていく。
そして、あっという間に男はケンタロウに首根っこを押さえられ、必死になって手足をバタつかせて抵抗していたけれど、ケンタロウにはまるで堪えていないようだった。



「おおきに~~!」

僕がケンタロウの所に辿り着くちょっと前に、獣人が走って来た。
それは、僕が初めて見る猫の獣人だった。
猫獣人は、大きな声で男に文句を言いながら、男が持っていた木の箱をもぎ取った。
なんでも、その男は商品を買うふりをして猫獣人に近付き、売上げ金の入った箱を奪って逃げたのだと言う。
男はケンタロウにも怒鳴られ、もう二度とこんなことはしないと土下座をして謝ると、一目散に逃げて行った。



「ほんま助かったわ。
ありがとう!」

猫獣人は片手を差し出し、ケンタロウと握手を交わす。
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