Gift

ルカ(聖夜月ルカ)

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089. 寄り道

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「さぁ…そんな話は聞いたことがありませんが…」

 「そう…ですか……そうですよね。
そんなの、ただの噂ですよね。」

 村の娘、リラはその心の中とは裏腹に、明るく笑って見せた。



 (やっぱり、あんな話、噂でしかなかったんだわ。
もし、本当にあるのなら、物知りな牧師様がご存知ないはずないもの…)



リラは、小さな溜め息を吐いた。



 *



リラは、ただ働くだけの灰色の日々に絶望していた。
いくら働いても、そのお金は両親の残した借金の支払いに消えてしまう。
その借金は、リラが一生働いても返すことが出来ない程、高額なものだった。
そんな自分の運命さだめを半ば諦めながらも、やはりまだ若いリラにはその現実を受け入れられなかった。



 隣町に買い物に行った時、リラはある噂話を耳にした。
この世のどこかに、違う世界に連れて行ってくれる不思議な馬車があるという。
その馬車が連れて行ってくれる世界は、希望に満ちた幸せな世界なのだと。



 (馬鹿だったわ、そんなうまい話があるはずなんてないのに…
私のは、一生、ただ働くだけ…
その人生から逃れることなんて、出来ないのよ…)



 「リラ!」

 「あ…お嬢様!」

リラを呼びとめたのは、領主の娘・イザベルだった。



 「あんた、またさぼってるのね!」

 「いえ…私は、教会へのお届け物を…」

 「そんなこと、どうでも良いわ!
 今からすぐにいちごを取って来て!」

 「え…この季節にいちごを…ですか?」

 「そうよ、魔の森には今でもイチゴが実ってるらしいわ。
それもとびきり美味しいのだとか。
 今からすぐに取って来てちょうだい!」

 「えっ!?」

 魔の森には言い伝えがあった。
その森には、魔物が棲み、特に、女性が入ると生きて出ることは出来ないと言われているのだ。
だから、昼間でも近寄る者はいない。



 「お嬢様、魔の森は…」

 「あんた、くだらない伝説を信じてるんじゃないでしょうね!
 魔物なんているはずないでしょ!
ぐだぐだ言ってないで、今すぐ行きなさい!」

イザベラの命令は絶対的なものだ。
 盾突いて辞めさせられたら、借金を返すどころか食べることにも困ることになる。



 「……わかりました。」

リラにはそう答えるしかなかった。
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