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ルカ(聖夜月ルカ)

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094. 理想郷

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部屋に戻った私は、長椅子に腰掛け、ぼんやりと指輪をみつめていました。



こんなことになるなんて、私は考えたこともありませんでした。
 私は、貴族の娘として生まれ、両親の愛に恵まれ、何不自由ない生活を送っていました。
そんな毎日が、ごく当たり前のことだと思っていたのです。



ですが、突然、生活が一変しました。
お父様が、いなくなられ、その後、柄の悪い人たちが屋敷に押しかけて来ました。
お母様のお話によると、お父様は性質の悪い人に騙されたということでした。



 使用人たちは、今日でこの屋敷を離れます。
 私達はすぐにでもこの屋敷を出なければなりません。
ですが、お金や宝石もすべて持って行かれた今…私達は一体、どこに行けば良いのでしょう?
 私は今まで働いたこともありません。
 家事も、すべて使用人がやってくれていましたから、何も出来ません。
お母様もきっと同じだと思います。
そんな私達がどうやったら生きて行けるのでしょう?



 親戚はいますが、ずっと遠くにいます。
 船で行かなくてはいけない場所ですし、あまり親しくないので、私達を受け入れてくれるかどうかもわかりません。
だから、きっとお母様はあんなことを言われたのでしょう。



 『理想郷を探しなさい。』と。



 幼い頃、お母様は良く理想郷のお話をして下さいました。
そこは年中温暖な気候で、泉からは清らかな水が溢れ、川には大量の魚が泳ぎまわり…
木々には瑞々しい果物がたわわに実り、土地は肥え、どんな作物も良く育ち…
住人たちは、皆、穏やかで、心優しいのだと。



なぜ、今頃になってお母様はそんなお伽話をされたのでしょう?
 今がとても辛い状況だからでしょうか?
お母様は、この辛い現実から目を背けておられるのでしょうか?



そんなことを考えていたら、私は急に胸騒ぎを感じました。
お母様のことが、なんだかとても心配でたまらなくなったのです。
 私は、お母様の部屋に向かいました。



 *



 「お母様!」

お母様は部屋で倒れておられました。
 口からは血を流し、目も虚ろでした。
グラスが転がっていましたから、きっと毒をあおられたのだと思います。



 「しっかりして下さい!」

 「アナベル…
ギルヴァーナの…古い…街道……
理想…き……」

 苦しい息の中で、お母様はそうおっしゃり…やがて静かに事切れました。
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