659 / 697
094. 理想郷
4
しおりを挟む
そこは、山を迂回した道で、最近は通る人がいないせいか、至る所に草が生え、とても歩きにくい道でした。
しばらく歩いて行くと、不意に十字路に出ました。
この街道は隣の町に続いているということでしたから、なぜこんな十字路があるのか、どこか不思議でした。
どちらへ進もうかと考えていた時、私の頭にある歌が思い起こされたのです。
『十字の小道は、北、東、北、北、西で、南行く…』
私が幼い頃、お母様が歌ってくれた歌の一部です。
それは理想郷のことを歌った歌でした。
私の体を震えが突き抜けました。
(……まさか。)
十字路を北に進むと、また十字路です。
今度は東に進むと、その先はやはりまた十字路だったのです。
そんなことを繰り返しながら、私は、十字の道を歌の通り、北、東、北、北、西、南と進んで行きました。
(……えっ!?)
十字路を南に進んだ時、唐突に、町のようなものが朧げに姿を現したのです。
私はその町を目指して進んで行きました。
町の入り口に髪の長い男性が立っていました。
「ようこそ、アナベル。」
「え?な、なぜ、私の名前を…?」
「あなたがここへ来ることはわかっていました。」
男性は、そう言って穏やかな笑みを浮かべました。
私は戸惑いながらも、どこか気持ちが落ち着くのを感じていました。
目の前には、肥沃な土地が広がり、小ぶりの民家が立ち並んでいました。
空は青く澄み渡り、賑やかな小鳥のさえずりが聞こえました。
「あ、あの…もしやここは……」
「あなたはもう何も心配することはありません。」
ふと、振り返ると、今、私の歩いて来たはずの道がなくなっていました。
その時、私は確信しました。
理想郷に着いたのだ、と。
「さぁ、行きましょう。」
差し出された男性の繊細な手に、私は自分の手を重ねました。
(お母様…ありがとう……)
青い空に、お母様の微笑みが見えたような気がしました。
しばらく歩いて行くと、不意に十字路に出ました。
この街道は隣の町に続いているということでしたから、なぜこんな十字路があるのか、どこか不思議でした。
どちらへ進もうかと考えていた時、私の頭にある歌が思い起こされたのです。
『十字の小道は、北、東、北、北、西で、南行く…』
私が幼い頃、お母様が歌ってくれた歌の一部です。
それは理想郷のことを歌った歌でした。
私の体を震えが突き抜けました。
(……まさか。)
十字路を北に進むと、また十字路です。
今度は東に進むと、その先はやはりまた十字路だったのです。
そんなことを繰り返しながら、私は、十字の道を歌の通り、北、東、北、北、西、南と進んで行きました。
(……えっ!?)
十字路を南に進んだ時、唐突に、町のようなものが朧げに姿を現したのです。
私はその町を目指して進んで行きました。
町の入り口に髪の長い男性が立っていました。
「ようこそ、アナベル。」
「え?な、なぜ、私の名前を…?」
「あなたがここへ来ることはわかっていました。」
男性は、そう言って穏やかな笑みを浮かべました。
私は戸惑いながらも、どこか気持ちが落ち着くのを感じていました。
目の前には、肥沃な土地が広がり、小ぶりの民家が立ち並んでいました。
空は青く澄み渡り、賑やかな小鳥のさえずりが聞こえました。
「あ、あの…もしやここは……」
「あなたはもう何も心配することはありません。」
ふと、振り返ると、今、私の歩いて来たはずの道がなくなっていました。
その時、私は確信しました。
理想郷に着いたのだ、と。
「さぁ、行きましょう。」
差し出された男性の繊細な手に、私は自分の手を重ねました。
(お母様…ありがとう……)
青い空に、お母様の微笑みが見えたような気がしました。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ガチャから始まる錬金ライフ
あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。
手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。
他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。
どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。
自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる