Gift

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
685 / 697
098. ほんの少しの寂しさと

しおりを挟む




それからの数日間は瞬く間に過ぎてしまった。
楽しい時間は早くに過ぎるというのは本当だと痛感した。
いや、マクシミリアンと一緒にいると楽しい事ばかりではない。
ついかっとすることや、悲しい気持ちになることもしばしばあった。
しかし、これほどまでに感情が揺れ動くことは今まで久しくなかったことだ。
いつもはただ流されるままに生きていただけ。
感情が動く事がなかったのだ。
心は半分死んでいた…
その心に命を与えてくれたマクシミリアンも、ついに明日旅立つ。
また、同じ毎日が戻って来るのだ。
せっかく命を吹き返そうとしていた私の心は、また闇に閉ざされるのだ。
それを考えると、私はなんとも言えない気分になった。








「フランク、世話になったな。」

そう言って、マクシミリアンは私の身体を抱き締めた。
彼に特別な気持ちがあるのではないことはわかっている。
ただの親愛の情を込めたハグだ。
だが…それは私にとっては、久しぶりに感じた人の温もりだった。
母親がいなくなってから、初めて感じた温もりだったのだ。

私の瞳から、今までの短い人生にたまった悲しみや寂しさが、涙になって溢れていた。



「フランク…!」

マクシミリアンは、私の涙に驚いたような顔をしていた。
私は気まずい雰囲気をどうすることも出来ず、その場から逃げ出そうとした時、彼の手が私の腕を掴んだ。



「フランク……君も一緒にいかないか?」

「えっ…?!」

「この船で、異国へ行かないか?」

「ば…馬鹿なことを言わないでくれ。
そんなこと出来るわけがないじゃないか!」

「なぜだ?
簡単なことじゃないか。」

「……簡単?」

「そうだ…君はただ手を伸ばせば良い。
自分の人生を変えたければ、自分で動き出せば良い。
……それだけだ。」

「いいかげんなことを言わないでくれ。
そんなことをしたら、父は…カステレード家は…」

「フランク…君は何のために生きているんだ?
父上のためか、家のため?
君が、今、生きているのは、君の人生なんだぞ!」

「やめてくれ!!」







高く青い空を白い雲がゆっくりと流れていく…




「フランク、空ばかり見てて良く飽きないな。
異国に着くまでの三ヶ月間、ずっとそうやって空を眺めてるつもりなのかい?」

マクシミリアンの笑顔が眩しい。



私は船に乗ってしまった。
マクシミリアンが差し伸べてくれた手を掴んで…

父のことを考えると、胸が痛む…
もしかしたら、異国の地に着いた途端に、私は船を乗り換えて故郷に戻ってしまうかもしれない。



だけど…そうしないかもしれない…

新しい地で、新しい人生を…
フランクではなく、フランソワとしての人生を歩み出すかもしれない…

それは、この船が着くまでに決断しよう。
とにかく、私が一歩前に進めたことだけは間違いのない事実だ。
一歩踏み出すまでに16年もかかったのだから、先を急ぐ事はない。
私の物思いを感じ取ったのか、どこか不思議そうな顔をしたマクシミリアンが微笑む。




私にも、いつか、あの空に手が届く日が来るかもしれない…

彼の笑顔をみていると、私はついそんな気持ちになれた。


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ガチャから始まる錬金ライフ

あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。 手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。 他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。 どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。 自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

処理中です...