１ページのあいうえお

手帳

２

＊



「それにしても、あんた、よく食べるわね。」

「成長期なんだよ。」

娘は一人暮らしをしているけれど、息子はまだ実家住まいだ。



「成長期にしちゃ、遅すぎね。太らないように気をつけなさいよ。」

「大丈夫だよ、俺はいくら食べても太らない体質だから。」

「そうとも限らないわよ。
私もお父さんも、昔は細かったんだから。」

「そうだぞ。父さんは若い頃、ガリガリでな。
『ネジ』ってあだ名だったんだから。」

「そうなのよ。今とは違って本当にガリガリだったのよ。
ちなみに、ネジって付けたのは私なんだけど……あーーーっ！！」

「な、なんだよ！」

「どうした！？」

「え？あ、あぁ、な、なんでもないの。」



私は唐突に『N』の正体に気が付いた。
『N』とはネジのこと。
ネジとは、つまりお父さんのことだ。
そう、あの手帳の年に、私はお父さんと出会ったんだ。
ガリガリでパーマをあてていたお父さんは、まさにネジみたいに見えたから、からかい半分でネジってあだ名を付けた。



今、目の前にいるお父さんは、パーマをあてる髪もなく、当時の三倍くらいに丸々と太ってる。



「プッ。」

「なに、吹き出してるんだよ。」

「いえ、変われば変わるものだなぁ…ってね。」

「知るか！」



あの手帳は、捨てずに取っておこうかな？
確か、あの次の年から私はお父さんと付き合い始めて、それからは『ネジ』じゃなくて名前で呼ぶようになった。
そんなことを思ったら、あの手帳がなんだか貴重なものに思えて来たから。