夢の硝子玉

それぞれの旅立ち

１０３

「……気を遣わせてすまないな。
 俺なら大丈夫だ…ありがとう。
ここまで話したからには、最後まで聞いてくれ…
 ……俺は、その言葉が耳から離れず、衝動的に走り出し、気が着くと近くの崖の上に来ていた。
ここから飛び降りれば楽になれる…人の目を畏れてまるで罪人のように逃げ回ることもなくなれば、エリーの傍にも行ける。
……そう考えた俺は、迷うことなく高い崖から身を躍らせた。

……どのくらい経ったのかはわからない。
 俺は、今までに味わったことのない痛みで目を覚ました。
 俺の足はおかしな方を向き、頭からは大量の血が流れていた。
 俺はこのまま死ぬんだ…
それは、悲しさよりも安堵感の方が強い不思議な感情だったよ。
……だが、そうはいかなかった。
 激しい痛みと悪寒、たまらない程の気分の悪さで俺は眠ることさえ出来ず、その場でのたうち回った。
 嘔吐と眠れないことで疲れ果てうとうとしたかと思うとまたすぐに痛みで目が覚める…
まさに、地獄だった。
 助けてくれ！
 誰か、この苦しみを終わらせてくれ！
 俺は、泣きながら毎日叫び続けた…だが、誰もそんな俺に気付く者はいなかった。
そんな地獄の日々が何日続いたのかもわからないある日、雨が降った。
 寒気は酷くなったが、口に入った雨水が俺に力を与えてくれた。
 折れた足をひきずりながら這いずり、なんだかよくわからない草を俺は千切って口に入れた。
そんなことをしながら、俺は長い時間をゆっくりとかけて谷底で回復していった。
 俺は年を取らないだけではなく死なない身体になってしまったんだ…その事が身に染みてよくわかった。
とても悲しかったよ…でも、あの苦しみを知ってしまうと、恐ろしくてもう一度同じ思いをすることは出来なかった。」

オスカーの壮絶な過去に、三人は言葉を失った。



 「……願い石っていうのは、恐ろしい石だ。
いいかげんな気持ちで願いをかけりゃ、俺みたいに人生を狂わせてしまうことだってある。
 後悔してももうどうにもならないんだ。」

 「で……でも、双子石をみつけりゃ…」

オスカーは、ようやく顔を上げ、ラスターに向かって頷いた。