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005 : 夏至祭の女王
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「か、母さん!!」
「……ジャン……」
母親が目を覚ましていることに気付いたジャンは、潤んだ瞳で母親に飛びついた。
「…母さん…気がついたんだね…良かった…良かった…」
「…ジャン…心配かけてすまなかったね…
母さんは…もう大丈夫だから…
本当にすまなかったね。
…ジャン…アンリは…?
アンリは…どこかに行ってるのかい?」
「……母さん…お兄ちゃんは…」
「マダム、彼は今、ちょっと町へ行っているのです…」
「え…?」
振り向くジャンに私は小さく目配せをした。
「そろそろ、薬を飲む時間ですね。
ジャン、私達も食事の用意をしなくてはいけないな。
手伝っておくれ!」
そう言って、私はジャンを台所に連れ出した。
「マルタンさん、お兄ちゃんのこと…」
「…もう少しお母さんがよくなるまで黙っていような…
今、知ってまた身体が弱ったら大変だ…」
「……うん、わかった…」
一時凌ぎの嘘にすぎない…
いずれは話さなくてはならないこと…いや、話さなくともわかってしまうことだ。
しかし、今の彼女にはその現実に直面するだけの力はないだろう…
せめてもう少し回復するまでは黙っていた方が良い。
ジャンは食事をする間も母親のそばを離れなかった。
母親が回復したことが嬉しくてたまらないようだ。
「ジャン、そろそろお母さんを休ませてあげないといけないぞ。」
「じゃ、僕、母さんが眠るまでここにいてあげるよ。
子守唄、歌ってあげるね…」
「ありがとうよ、ジャン…」
澄んだ歌声を響かせながら、ジャンは母親に向かって子守唄を歌いだした。
私はその歌を知っていたのかどうかはわからないが、聴いているとどこか懐かしい…
幸せな二人の邪魔をしないように、私はそっと外に出た。
歩きながら、小屋の裏の小さな墓に目が向いた。
あと何日かしたら、この墓に眠るアンリのことを話さねばならない…
その時のジャンと母親の気持ちを考えると、胸が締め付けられる想いがする。
私は近くに咲いていた薄桃色の花を摘み、墓に手向けた。
伝説を信じ…自分の命を顧みず、夜光珠の盃を取りに行った少年…
……少年は最期の瞬間にどんなことを考えたのだろうか…?
「か、母さん!!」
「……ジャン……」
母親が目を覚ましていることに気付いたジャンは、潤んだ瞳で母親に飛びついた。
「…母さん…気がついたんだね…良かった…良かった…」
「…ジャン…心配かけてすまなかったね…
母さんは…もう大丈夫だから…
本当にすまなかったね。
…ジャン…アンリは…?
アンリは…どこかに行ってるのかい?」
「……母さん…お兄ちゃんは…」
「マダム、彼は今、ちょっと町へ行っているのです…」
「え…?」
振り向くジャンに私は小さく目配せをした。
「そろそろ、薬を飲む時間ですね。
ジャン、私達も食事の用意をしなくてはいけないな。
手伝っておくれ!」
そう言って、私はジャンを台所に連れ出した。
「マルタンさん、お兄ちゃんのこと…」
「…もう少しお母さんがよくなるまで黙っていような…
今、知ってまた身体が弱ったら大変だ…」
「……うん、わかった…」
一時凌ぎの嘘にすぎない…
いずれは話さなくてはならないこと…いや、話さなくともわかってしまうことだ。
しかし、今の彼女にはその現実に直面するだけの力はないだろう…
せめてもう少し回復するまでは黙っていた方が良い。
ジャンは食事をする間も母親のそばを離れなかった。
母親が回復したことが嬉しくてたまらないようだ。
「ジャン、そろそろお母さんを休ませてあげないといけないぞ。」
「じゃ、僕、母さんが眠るまでここにいてあげるよ。
子守唄、歌ってあげるね…」
「ありがとうよ、ジャン…」
澄んだ歌声を響かせながら、ジャンは母親に向かって子守唄を歌いだした。
私はその歌を知っていたのかどうかはわからないが、聴いているとどこか懐かしい…
幸せな二人の邪魔をしないように、私はそっと外に出た。
歩きながら、小屋の裏の小さな墓に目が向いた。
あと何日かしたら、この墓に眠るアンリのことを話さねばならない…
その時のジャンと母親の気持ちを考えると、胸が締め付けられる想いがする。
私は近くに咲いていた薄桃色の花を摘み、墓に手向けた。
伝説を信じ…自分の命を顧みず、夜光珠の盃を取りに行った少年…
……少年は最期の瞬間にどんなことを考えたのだろうか…?
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