お題小説

038 ： 天象儀（プラネタリウム）

１

「お前達の望みは、今、叶えられた！」

魔女が大きな声でそう叫ぶと、地下庭園のすべての灯りが消えた。
やがて、もの悲しいハープの音色が緩やかに奏でられ、それと同時に天井に無数の星が投影される。
客席からは、おぉ～っ！という感嘆の声が沸き上がった。

ハープの伴奏で、姫と仮面の騎士の歌が流れる。
これであなたと一つになれた。私達はもう二度と離れることはない。誰にも邪魔されずこれからはここでずっと幸せに…愛し合う恋人達を優しい光で照らし続けていきましょう…といった内容の歌詞だった。

二人の歌が終わると、客席から割れんばかりの拍手が巻きおこった。
リュックは、立ち上がり拍手を送っている。

そして、ステージにライトがともり、出演者が並んで登場した。

観客達は彼らに惜しみない称賛の拍手を送る。

リュックは泣きはらした顔をしながら、ステージに向かって手を振り指笛を吹いている。
かなり興奮しているようだ。

やがて、赤いカーテンがするするとひかれ、オペラはその幕を閉じた。



「あぁ～、マルタン！
最高だったぜ！
思ってた以上だ！
オペラがこんなにすごいもんだとは思ってなかった。」

リュックはいまだ興奮が覚めないようだった。



「本当に素晴らしかったな！
私も感動したよ。」

そう言う私も実はリュックと同じような気持ちだったのだ。



「俺、喉がカラカラだ。
どこかで冷たいものでも飲みたいな。」

「…では、私の屋敷に来られませんかな？」

声をかけられ振り向くと、そこにはあの老人がいた。



「あ、あなたは…」

「私の屋敷はすぐ近くなんです。
少し寄って行かれませんかな？」

「お邪魔しても良いのですか？」

「ええ、私には家族はおりませんから、気がねはいりませんよ。」

私達は、老人の誘いを受けることにした。
老人の家は、彼の言った通り、バスティア家のすぐ近くにあった。
バスティア家のものとは到底比べ物にはならないが、それでも相当に立派な屋敷だった。