479 / 641
072 : 揺りかごの歌
1
しおりを挟む
町には人通りもほとんどなかった。
尋ねる人もないままに町の中を歩いていると、私達はやっと一軒の宿屋をみつけた。
早速、中に入りクロワのことを尋ねてみると、クロワらしき女性はここに一泊した後、旅立ってしまったと言う事だった。
「困ったな。
クロワさん、かなり怒ってるみたいだな。
あんただけでもすぐに追いかければ良かったのに…」
「今更そんなことを言っても仕方がないじゃないか。」
「そりゃあ、そうだけど…
じゃ、とにかく先を急ごう!
夜通しで歩けば、ずいぶん差を縮められるはずだ。」
「リュック…
そこまですることはないじゃないか。
今夜はここで休んで行こう。」
「なんでだよ。そんなことをしてたら、クロワさんになかなか追いつけないぜ。」
「そうは言っても、今日も朝から働くだけ働いて、そしてすぐにここまで歩いて来たんだ。
いいかげん、体力の限界だ。
私は君のように若い身体じゃないんだからな。」
「ちぇっ、情けないなぁ…」
「まぁ、そういうなよ。
クロワさんも、数日経って気持ちが落ちついたらきっと待っててくれるさ。」
私がそんなことを言ったのは、時間を稼いでクロワを先に進ませるためでもあり、そして、もう一つには本当に疲れていたからだ。
このまま次の町まで眠らずに歩くなんてことは、今の私には出来そうになかったのだ。
リュック自身も本人に自覚はなかったのかもしれないがやはり疲れていたようで、僅かな寝酒を飲んだだけで、私より先に眠り込んでしまっていた。
そんなリュックを見て、私もうとうとし始めた時、どこからか美しい女性の歌声が聞こえて来た。
心が洗われるような澄みきった細い声が歌っていたのは、子守り歌だった。
泊り客に子供でもいるのだろうか…
そんなことを考えているうちに、私もいつの間にかその子守唄で安らかな眠りに就いていた。
*
「あぁ~、昨日はよく寝た。
あんたに情けないなんて言っちまったけど、俺も疲れてたみたいだ。」
「そりゃあそうだろう。
昨日は、かなりの強行軍だったからな。」
私達が宿屋の食堂で朝食を食べていると、小さな子供を連れた若い母親が入って来た。
その少年は、異常な程白い肌をして、痩せこけている。
髪の毛は艶がなく、瞼を開くのもだるいようだ。
尋ねる人もないままに町の中を歩いていると、私達はやっと一軒の宿屋をみつけた。
早速、中に入りクロワのことを尋ねてみると、クロワらしき女性はここに一泊した後、旅立ってしまったと言う事だった。
「困ったな。
クロワさん、かなり怒ってるみたいだな。
あんただけでもすぐに追いかければ良かったのに…」
「今更そんなことを言っても仕方がないじゃないか。」
「そりゃあ、そうだけど…
じゃ、とにかく先を急ごう!
夜通しで歩けば、ずいぶん差を縮められるはずだ。」
「リュック…
そこまですることはないじゃないか。
今夜はここで休んで行こう。」
「なんでだよ。そんなことをしてたら、クロワさんになかなか追いつけないぜ。」
「そうは言っても、今日も朝から働くだけ働いて、そしてすぐにここまで歩いて来たんだ。
いいかげん、体力の限界だ。
私は君のように若い身体じゃないんだからな。」
「ちぇっ、情けないなぁ…」
「まぁ、そういうなよ。
クロワさんも、数日経って気持ちが落ちついたらきっと待っててくれるさ。」
私がそんなことを言ったのは、時間を稼いでクロワを先に進ませるためでもあり、そして、もう一つには本当に疲れていたからだ。
このまま次の町まで眠らずに歩くなんてことは、今の私には出来そうになかったのだ。
リュック自身も本人に自覚はなかったのかもしれないがやはり疲れていたようで、僅かな寝酒を飲んだだけで、私より先に眠り込んでしまっていた。
そんなリュックを見て、私もうとうとし始めた時、どこからか美しい女性の歌声が聞こえて来た。
心が洗われるような澄みきった細い声が歌っていたのは、子守り歌だった。
泊り客に子供でもいるのだろうか…
そんなことを考えているうちに、私もいつの間にかその子守唄で安らかな眠りに就いていた。
*
「あぁ~、昨日はよく寝た。
あんたに情けないなんて言っちまったけど、俺も疲れてたみたいだ。」
「そりゃあそうだろう。
昨日は、かなりの強行軍だったからな。」
私達が宿屋の食堂で朝食を食べていると、小さな子供を連れた若い母親が入って来た。
その少年は、異常な程白い肌をして、痩せこけている。
髪の毛は艶がなく、瞼を開くのもだるいようだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
やっかいな幼なじみは御免です!
ゆきな
恋愛
有名な3人組がいた。
アリス・マイヤーズ子爵令嬢に、マーティ・エドウィン男爵令息、それからシェイマス・パウエル伯爵令息である。
整った顔立ちに、豊かな金髪の彼らは幼なじみ。
いつも皆の注目の的だった。
ネリー・ディアス伯爵令嬢ももちろん、遠巻きに彼らを見ていた側だったのだが、ある日突然マーティとの婚約が決まってしまう。
それからアリスとシェイマスの婚約も。
家の為の政略結婚だと割り切って、適度に仲良くなればいい、と思っていたネリーだったが……
「ねえねえ、マーティ!聞いてるー?」
マーティといると必ず割り込んでくるアリスのせいで、積もり積もっていくイライラ。
「そんなにイチャイチャしたいなら、あなた達が婚約すれば良かったじゃない!」
なんて、口には出さないけど……はあ……。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる