お題小説

075 ： 嘘と約束 白いネコ

１８

「か…陽炎の化石…
さぁ、どうだったかな？
聞いたことがあるような気もするが…」

「もう忘れたのか！
あの本に書いてあったじゃないか！
あまりに突然のことすぎて、自分が死んだことさえわからないような者の魂が集まって出来る石のことさ。
そして、その石は、不治の病を治すとされている。
俺は、もしかしたら、フランクさんはその石をみつけたんじゃないかと思うんだ！
それで、ユベールがあんなに急に元気になったんじゃないかって…」

「まさか…あれは、伝説や言い伝えの書いてある本で、本当にそんなものがあるわけじゃないんだろう？
それに、ユベールは不治の病なんかじゃない。
虚弱体質だとオデットさんが…」

「ただの虚弱体質で血を吐くなんて聞いたことがない。
きっと、あれは悪い病気だったんだ。
でも、陽炎の石でそれが治ったんだ。」

「リュック…そんな話はクロワさんには絶対にするなよ。
彼女は薬師だ。
医学の勉強をして、それに基づいて薬を作り人を助けてるんだ。
そういう非現実的な話は嫌いだろうからな。」

「わかってるさ。
信じてくれないような人に、そんな話をしても気分が悪くなるだけだ。
クロワさんには何も言わないさ。」

リュックのその言葉に、私はほっと胸をなでおろした。

食事の時にもリュックは、その話をしなかった。
きっと彼は今後もクロワの前でその話はしないだろうと思われた。
これで、なんとかリュックの方は安心だ。



次の日も、いつも通り、私達は診療所に出かけた。



「ユベール、具合はどうだい？」

「うん、とっても良い感じだよ。
なんだかものすごくおなかがすくんだ。」

「そうか、そいつは良かったな！
その調子でたくさん食べれば、もっともっと元気になれるぞ！」

フランクとオデットもとても幸せそうな顔をしていた。
ユベールは、明らかに元気になっている。
 今までとは別人のように、彼の瞳には生命力が宿っている。
もう心配はないだろう…



「じゃあ、そろそろ行くか。」

「マルタン、俺は今日はやめとくよ。
悪いけど、俺は宝石掘りは向いてないようだ。
町をぶらぶらしてるよ。」

「そうか、じゃあ、行って来る。」

私とクロワは、リュックを残して採掘場へ向かった。